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「あはははっ!面白いなあの人!!走っていったぞ!」 「全然面白くないよ……はぁ……なんでこうなるのかなぁ……」 「……で、あいつ何に怒ってたの?」 純粋そのものの瞳で髙橋に問われて、俺は再度ため息を吐いた。 「……消毒だけやって、いなくなっちゃったけど……」 渡辺が言ったことで、傷口がやけにスースーしていることを思い出す。 あの保健委員、苛立ってはいたけど、消毒はちゃんと終わらせていったのか。 「手当ての続きは、僕がやるね」 「ぁ、ありがと……」 椅子に座る俺の前に屈んだ渡辺は、絆創膏やガーゼを貼っていく。その手つきを眺めていると、渡辺は手元を見たまま口を開いた。 「……僕は、ちょっと分かるよ。あの保健委員さんの気持ち」 「え゛っ……!?」 「成崎くんは女の子が好きなの知ってるし……、誰と仲良くしてたってそんな気無いって分かってるけど、」 口調は穏やかなのに、表情は苦く苦しそうだった。 「働き者で、皆に優しくて、皆に頼られて……、憧れの人たちに囲まれてる………………分かってても、嫉妬しちゃうよ」 自分が醜い、と悲しそうに笑った渡辺を俺は励ますべきだったんだろう。ただ、言われたことが衝撃的すぎて対応できなかった。 俺が優しい?頼られてる?ぉ、俺…………めっちゃいい人に見えてるじゃん!?回りから見た俺ってそうなの!?嘘?回りの印象と自分が違いすぎて、どうリアクションしていいのか分からないんですけど……!俺はただ、面倒事に巻き込まれないように過ごしてきただけなのに…… 「成崎って、やっぱいい奴なんだな!」 「……は?……いやいや、違う。渡辺は俺を過大評価してるよ。俺は何もしてないし、」 「いい人の回りには、人が集まるんだよ」 渡辺に笑いかけられて、こそばゆくなって視線を反らす。俺はそんな大層なものじゃない。 「なぁなぁ!そんなめちゃめちゃいい人の成崎に聞きたいんだけどさ!」 「だから違うって……。」 「ボールが落っこちた、川?池?の魚って、結局答え何なの?」 「………………」 まだそれ考えてたの?そんなに気になってたんだ。 「……教師にでも聞けば?」 「なんだよそれー!お前いい奴なんだろぉ!」 「残念。全然そんなことないから、教える義理もないよ」 「ヒドくね?!渡辺ぇ!答えわかる?」 「ぇ、ご、ごめん……僕も分かんないや」 「それじゃずっとムズムズしたまんまじゃん!」 「……ぁ、藏元くん!」 「へ?藏元が何?」 「前に、成崎くんが言ったクイズを、藏元くんは答えられたんだよ!」 いつ俺がクイズなんて出したよ。授業其方退けでみんなが勝手に謎解きしてただけだろ。 「!それだ!藏元に聞こう!」 そして藏元は試合中だよ。それが終わるまでは、髙橋はずっとムズムズしてるんだよ。 ははは、面白い。こんな俺、果たして本当にいい人かい? 「……ぁ、藏元といえば」 「ん?」 「俺が思い出したこと、成崎、聞きたい?」 そうだった。髙橋は、藏元をどこかで見かけたといっていた。そしてその記憶を思い出したらしい。 俺は聞きたいか?そりゃ勿論。藏元はいい奴だし、友達だ。理解したいと思う。 その一方で、真逆の感情が首を振る。 まだ藏元との関係に踏み込めない? じゃあ何かのきっかけがないとずっとこのままなんじゃないか?なら、髙橋に聞いて藏元を知るきっかけにすればいい。 ……でも、何故か、それすらよく思ってない自分がいる。

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