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「…………多分、……聞きたいんだと思う」
「?……ハハ、なんだよその言い方」
曖昧で他人事のような俺の返事に、不思議に思わないわけがない。髙橋も渡辺も、微妙な顔をしている。俺だって、俺自身に同じ表情をするだろう。
「んー……俺もよく分かんなくて……」
「まぁ、人のことを俺が話すのも変だよなぁ」
「で、も……悪い話とかじゃないんだろ?」
その問いに髙橋が首を縦に振ったことに、内心かなり安心した。聞きたくないと少なからず思っている以上、悪い話を聞けば必ず後悔するだろうから。
「……よし…………聞く。」
「そんな気合い入れて聞かれても、俺も大した記憶じゃないんだけどな」
「いいから言え!!」
「ちょっ、怒鳴んなって!」
「俺の覚悟が揺らぐ前に言え!!」
「分かったって!お前基本冷静キャラだろ!?どうしたんだよ!?」
俺のテンションがおかしくなって、髙橋が俺の肩を押さえながら宥めてくる。
「藏元は、スポーツ強豪校の生徒だった!……多分!……いや、間違いなく!」
「…………」
「去年の大会で、見かけたんだな。うん、それしかない。クラスマッチのおかげでスッキリしたよー」
「…………なんだよ」
「?何が?」
「なんか、ちゃんと普通だったな」
俺のリアクションがかなり薄かったからなのか、むくれる髙橋を他所に思考を整理する。
サッカーが得意。スポーツが得意。それなら、前の学校でスポーツをやっていたというのも頷ける。強豪というのは予想してなかったけど、それでも俺の考えが及ぶ範囲でよかった。
場合によっては、今後、藏元との接し方を変えなきゃならなかったが、それはしなくてよさそうだ。
「……ちなみに、それ、何の大会か覚えてるの?」
「ん?……えー、と……ね」
「…………髙橋らしいね」
髙橋は運動部を掛け持ちしてる。しかもこんな性格。覚えてないのもあり得ない話じゃない。
「ぁ、あー!」
「何だよ?」
「あとはさ、成崎」
「ん?」
「本人に聞けよ、な?」
「………………そうきたか」
通りで、ぎこちなくなった髙橋の視線が俺から少しずれていると思った。
俺は、椅子に座ったまま振り返る。
保健室の出入り口に、息を切らせた藏元が立っていた。
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