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手に持っていたフェイスタオルで滴る汗を拭いて、中に入ってきた藏元は髙橋の傍に立った。
「何の話?」
「ん?お前が、前の学校はスポーツの強豪校にいたって話」
ぁ、それ言っちゃうんだ。もし触れられたくない話だったらどうするんだよ。
「うん、そうだね。」
「ぁ、そんな簡単に認めるのか……」
「やっぱそうだろ?ほらな!」
「それより髙橋くん、成崎を送ってくれてありがとう。あの場に髙橋くんがいてよかったよ」
「ぁ、うん、……気に、すんなよ」
藏元が王子様スマイルを発動した。強敵の髙橋にも、その技は通用するらしい。あの髙橋が、照れて力を削がれた。藏元って最強の武器搭載してんだな。
「あとは俺がやるね。色々ありがとう」
「おぉ、……ぁ、く、藏元……あのさ、」
王子様スマイルは属性でもあるのか?髙橋は麻痺したようにはっきりと喋らない。
こんな髙橋、初めて見た。
「……さ、魚」
「魚?」
「ボール、……池ポチャしたら、魚がいたんだ……」
「え?」
髙橋の言うことにかなり戸惑ってる藏元。というか、俺もそんなこと言った覚えない。
何勝手にストーリーつけてんだ。いつ俺がゴルフしたんだよ。しかも池ポチャって切なすぎるだろ。それに、もし池ポチャしそうなら落ちる前に叫ぶし。ファーーー!
「……ボールが落ちた池の魚、って何のことか分かる?藏元くん」
その状況を見ていられなくなった渡辺が、透かさず藏元に正しく伝える。
藏元は正しい言葉を聞くと、少し間を空けて俺を見た。
「……それ、成崎が言ったんでしょ?」
「うん、でも僕も髙橋くんも分からなくて……」
「ふふ……言葉遊びがほんと好きだね、成崎」
「………………」
俺はそんなつもりないけど、みんながクイズにしてしまうんだ。
「……藏元、分かるか?」
「……“稚魚の殃 ”、じゃない?……成崎、違う?」
肯定するようにそっぽを向いた俺にまた藏元は笑った。
「それってどういう意味?」
「あーもう!意味くらい辞書で調べなさい!」
「えー?!」
「髙橋は、そろそろ試合の時間じゃねえの!?いっぱい出てるんだろ?!」
「あっ!そうだ、グラウンドに行かないと!」
「僕も、……応援に行ってもいいかな?」
「ん?おう、いいよ!」
渡辺の手を引いて、俺と藏元にまたな!と声をかけて髙橋は出ていった。
「……とりあえず、藏元も座れば?」
「いや、でも……」
「何?なんか不満?俺の隣には座りたくないとか?」
「そうじゃなくて……俺汗臭いと思うし」
嫌味か。お前が“臭い”に含まれるなら、他の汗かいてる奴は劇物にでもなってるだろう。
「藏元は全然気になんないから大丈夫。むしろ、俺の方がヤバイかも」
「成崎はシャンプーの匂いがした」
……交代したときか。ちゃっかり何言ってんだお前。他の奴に言ってみろ。キャッ、てなるから。たちまち藏元の虜になるから。
「じゃあもうお互い様ってことで、座れよ!そしてちょっとサボっていこう。藏元も共犯な」
「あはは、狙いはそれか」
隣に座った藏元の首筋から汗が流れている。サッカーやって来た後、すぐにバスケで走ったんだもんな。かなりの運動量だっただろう。
汗を拭く姿を俺が見ていたからか、藏元はTシャツの首回りを指で摘まんで、パタパタと服の中へ空気を送る。
「つい本気になっちゃって……凄い暑い」
「東舘さん相手じゃ、相当頑張らないといけなかっただろ」
「うん……副会長、口調は軽いのに本当にバスケ好きなんだね。めっちゃ強かったよ」
「プロの試合とかもよく見に行くらしいよ」
「そうなんだ?……失礼だけど、何かに熱中するとか、イメージになかったな」
「俺も聞いたとき同じようなこと思った」
開け放たれた窓から心地いい風が吹き込んできて、サボってる俺たちを涼めてくれる。どうせなら、ここまま今日が終わらないだろうか。
「ここ天国だなぁ……」
「そうだね。動きたくなくなる……」
「……あと2Bが残ってる競技は…………藏元も出てるサッカー?……と、団体戦の大縄と、代表リレーか」
「バスケもだよ」
藏元の言葉を、俺は理解できなかった。
は?……バスケ?……うちのクラス、トーナメントに残ってるの?……て、ことは?
「……ぇ…………東舘さんのクラスに、勝ったの?」
「うん、……ギリギリだったけどね」
申し訳なさそうに笑う藏元に、信じられず放心状態になる。そして、肩を組むようにして顔を近づけた俺は表情筋を緩ませた。藏元は驚いていたが、変顔になっている自信はあるので仕方ない。
「お前……スペック高すぎるだろ!マジ凄いよ!」
「っ……、うん、あり、がと……成崎、大丈夫?俺汗でベタベタしてるかも」
「はぁ?んなの知るかよ!男の友情にいちいちそんなの気にするな!」
ガシガシと肩を抱けば、戸惑いながらも抵抗せずやられる藏元に俺も笑いが溢れる。
「そんな凄いのに、何で言わなかったんだよ?」
「……それなんだけど、さ……」
「本当、ムカつくよね」
藏元が多分、大事なことを言いかけてたのに、別の声が割って入ってきた。
出入り口を見れば、東舘さんが扉を閉めてそこにいた。
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