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「自由って……成崎に何をしようとしてるんですか」 拳に力を込めた藏元は、喉の奥で何かを堪えてるようにも感じる。そんな藏元を嘲笑うかのように、東舘さんは首を傾げて肩を竦めた。 「そんな怒んないでよ。……つーか、怒りたいのはこっちなんだけど。俺はなりちゃんに、ゆっくり教えていくつもりだったのに……。君のせいで色々グチャグチャなんだよね」 藏元を一瞥した東舘さんは扉に向かってゆっくりと歩き出した。 出ていくのか?そう思った俺は、引き留めるつもりだったのか、自分でも知らぬうちに椅子から立ち上がった。 「……なりちゃんは、ずっと、無意識に、抑制する壁を作ってたんだ」 「……抑制?」 「壁の外の人に違和感を持たれないような、自分を抑制する壁」 「ちょ、……ちょっと待ってください東舘さん!それ、俺の話、してるんですよね?」 「そうだよ?」 「俺、全然納得できないというか……何の話してるのか全く理解できないんですけど」 俺の話をしてるのに、俺自身が理解出来ないのはおかしい。じゃあ、東舘さんの言っていることは間違っている筈だ。これ以上、俺も藏元のことも混乱させないでくれ。 そう思って口を挟むと、東舘さんはこくりと頷いた。 「だろうね。だから、“無意識に”って言ったじゃん」 「…………あんただけは、気付いてたって言いたいんですか」 「俺だから、じゃない?」 そんな馬鹿な……。東舘さんみたいな異じょ……平凡からかけ離れた人に、俺の無意識の行動が理解されるなんて。 ……ん?じゃあ、俺が東舘さんに理解されるような変人?……違う。断じて違う。俺は凡人だ。……良いのか悪いのか。 「…………」 「それなのに、転校してくるなり、なりちゃんの隣を陣取って、順序を狂わせて、なりちゃんの壁の中に無理矢理に踏み込んで、環境を乱したのは藏元くんだよ」 少しずつ、扉に近づいていく東舘さん。 目的は自由にすること。そうは言ったけど、その内容については言っているようで言っていない。遠回しな言い方ばかりで、芯はぼやけている。 全然言いたいことが分からないと、東舘さんに伝えていいと思うんだ。俺だったら、ハッキリ言ってしまうだろう。 それなのに、隣の藏元は唇を噛んだまま、何も言わない。扉に手を掛ける東舘さんの背中をただ、睨んでいる。 そして、とうとう、東舘さんは行ってしまった。 何故、何も言わなかったのか。 もしかしたら、俺だけが、理解していなかったのか? 「……藏元、」 「グラウンドに行こうか。そろそろ、サッカーの試合時間かも」 「……でも、今の、」 「この話の続きは、また後で話そうね」 有無を言わさず歩き出す藏元に、俺もついて行くしかなかった。

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