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藏元に少し気まずさを感じて話しかけられなかった俺は、保健室から出た後暫く沈黙が続いた。
そして、グラウンドに到着すれば、壮大な歓声に包まれていてその空気に圧倒された。
そこで行われているのはサッカー。周囲を埋め尽くすように観戦している生徒たちは、どの学年とも絞れないバラバラの学年層だった。
彼らは皆、絶叫するかのように応援している。
今、大観衆の注目を浴びて戦っているのは、髙橋が率いるチームと、宮代さんが率いるチームだった。ふたりのファンを中心に、熱狂する会場。
これほんとに高校のクラスマッチの試合か?ワールドカップ級の熱量じゃね?
「成崎、俺はチームのところに行くから。また後でね」
会場の雰囲気に呑まれていた俺にいつも通り微笑んだ藏元は、俺から離れると周囲の視線を集めながら行ってしまった。
藏元は切り替えが早い。何かを隠すのが上手い。多分今も東舘さんの事で気持ちは晴れていない筈だ。それを何処と無く感じる俺は、平静を装っている藏元が、余計苦しそうに見えてしまった。
「あぁ!!なんて眩しい御姿!!」
「汗すらも輝いてる!!宝石!最早宝石!!」
珍しく深刻になっていた俺は、試合に夢中になっていたファンふたりの会話が聞こえてきて、俺のシリアスな空気を一瞬で掻き消した。
「会長様も、会計様も、拝めるだけで僕らの救い!!」
「それなのに、動いている姿を肉眼で拝見できるなんて……僕たちはなんという幸せ者なんだろう……!!」
んー…………ふたりは生物ですから。人間ですからね。そりゃ動きますよ。呼吸以外にもちゃんと活動するんですよ。
動いていることにここまで驚き、歓喜する彼らに、俺は教えてあげたい。驚天動地の真実を。
なんと、あのふたりには…………手で触れる事の出来る実体があるんです!人間ですからね!
「汗がっ……地面にっ!!」
「勿体無い!」
「でも、御二人の汗には、命が宿るという伝説も……!」
「そーなの!?」
そーな訳ないでしょ!?君たち、ファンタジーの世界から来たの!?あのふたりは妖精ですか!?いくら俺でもそんな想像はしたことないよ!!
「あの汗を拭いたタオル、ファンサービスでいただけないかな」
「プレミアタオル!!絶対洗えない!!」
「そしたら、そのタオルに命が宿り、お花が芽生えてくるんじゃ……!?」
「黄金の花!!それ絶対黄金の花だよ!!」
汗拭いたタオルを放置してたら、生えてくるのはカビかキノコだよ。ぁ、夢見る人と食事中の人すいません。
でもそうなんですよ。人間ですからね。
深刻になりかけていた俺は、頭がお花畑の彼らの会話でちょっと元気になった。
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