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試合が終わって、拍手喝采。両チームを称える歓声が響く。
結果は、4-3で、宮代さんのクラスが勝った。
悔しい悔しいと喚きながらも、髙橋は清々しい顔をしていてとても楽しかったというのが伝わってくる。宮代さんが髙橋に声をかけると、次の試合も頑張ってください!と力強くハグされて宮代さんはそれに笑ってた。
周囲は当然、キャーーと、ピンク色の悲鳴をあげてたけど。
それから30分間の休憩を挟んで、次の試合はついに決勝。
うちのクラス対宮代さんのクラスだ。
東舘さんと違って、宮代さんは藏元とそれほど関わっていない。藏元も、宮代さんのファン対応を真似したい等と言っていたので、宮代さんを嫌悪してはいないだろう。
ふたりの関係はそれなりに良好だと思う。だから、この試合は普通に観戦できる筈だ。……その筈なのに、落ち着かない俺。
何が不安要素なのか暫く悩んでも理解できないまま、試合開始の合図が鳴る。
宮代さんは、どんな動きをしてもスマートで、華麗で、知らないうちに目で追ってしまう。確かに騒がれるよなって思った。チームメイトと何か言葉を交わしては微笑む姿に、いちいち大歓声が上がる。
藏元は、凄かった。ボールの扱い方が、他の人とは明らかに違う。慣れた足捌きで走っていく藏元に、皆が驚いている。そのパフォーマンスに魅せられた皆が口を揃えて凄いと言いたくなるのも頷ける。
芝生が生えた土手に膝を抱えて座り、その試合を見ていた俺は小さくため息を吐いた。大盛り上がりの試合なのに、なんで俺だけこんなに冷静なの。この場の空気に、取り残されてる感が凄い。
別に応援できないとか、つまらないとかじゃないんだ。ただ、どうしても、藏元が視界に入ると、保健室でのやり取りが脳裏を過ってしまう。
「…………駄目だ」
膝に顔を埋めた俺は少し気持ちを落ち着かせてからその場から立ち、グラウンドを後にした。
***
気分転換も兼ねて、ある場所に向かおうとしていた俺は、その途中で思わぬ人に呼び止められた。
「成崎くん」
「?……千田」
「あらら。めっちゃ疲れた顔してるね、大丈夫?」
癒されたいときに現れるよねこの子。容姿だけじゃなく、ほんと天使なんじゃないの?
「凄い疲れてる。」
「あはは、東舘副会長に引っ掻き回されたもんねー」
「!?なんで、それ」
「ビックリしすぎだよ。バスケの揉め事も、ちゃんと生徒会に報告入ってるからね」
「ぁ、そう……か……だよね」
「そうそう。それでね、これ、宮代会長から」
そう言って千田が差し出してきたのは薄い紙袋。大きさはB5サイズくらい。
「……なに?」
「宮代会長、今日凄い忙しいから、代わりに渡しておいてって頼まれたの」
「…………本だ」
袋を覗けば、薄い本が1冊入っていた。どういうことだろう。何故、今日?
「働き過ぎず、休憩も挟めってさ」
にこっと笑った千田に、俺も思わず笑った。宮代さんの優しさが、犇々 と伝わってくる。
「……ん、ありがと。千田も、ありがと。」
「どういたしまして。」
「…………てか、こんなところにひとり……、千田大丈夫か?」
回りを見渡しても、人はいない。千田は、男の俺が言うのもなんだけど超可愛い……顔をしている。
だから、こんなイベントの日には、浮かれて良くない気を起こす輩もいる。千田を、このままひとりどこかに行かせるのも危険だ。
「どこかに用なら、そこまで送るけど」
「大丈夫だよ」
「……いや、でもさ」
「うん。わかってる。僕可愛いからね。その心配でしょ?」
……イラッとしたけど、堪えよう。ここまで来たのだって、俺の為なんだから。
「僕も、回りからたくさんたくさん言われてるから自覚してるよ。可愛いんだって」
我慢我慢。なるべく受け流せ。最初会ったときは天使だって思ったじゃん。その感情を思い出せ。穏やかに、冷静に、聞き流せ俺。
「だから、大丈夫。今も、僕の回りに見えないだけで護衛の人が隠れてるから」
「……マジ?」
見えない護衛…………!?忍びを従えるなんて……かっこいいぃいぃいっ!
「あはは、成崎くん、目キラキラしてる!そういうの好きなんだね」
「ぁ……いや…………じゃあ、まぁ……大丈夫なんだね?」
「うん、ありがとう。じゃあ、僕は行くね」
「おぅ。」
もう一回お礼を言って、手を振って俺と千田は別れた。
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