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緑の植物、色とりどりの花、俺の慎重くらいの植木が色鮮やかに細道を彩っている。今日は気候も穏やかで、雲ひとつ無い晴天だったからか、ミツバチや蝶もフワフワと舞っている。
俺はその細道をぐんぐんと進み、学校は少しずつ小さくなっていく。クラスマッチで盛り上がる生徒たちの歓声や、忙しなく走り回る足音は、もう聞こえない。
ここで聞こえるのは、風の音と、それに揺られる植物の葉の音。
俺がやって来たのは、いつものガゼボだ。
喧騒から離れると、乱されていた心が嘘のように落ち着いていく。やっぱり俺は、ここが好きだ。
何かあれば、支給携帯電話の方に連絡が入るだろうし、少しだけ、ここで休んでいこう。
屋根の下に入って、ベンチに腰を下ろした俺は、千田から受け取った紙袋から本を取り出した。本と一緒に栞も1枚入っていたけど、恐らく使わないだろうな。
宮代さんと俺が好きなあの小説は、1冊大体500~550ページはある本だ。それに対して今手元にあるこの本は、200ページくらいの比較的軽い本だった。
多分、宮代さんは俺が物語にハマり過ぎるとクラスマッチを放棄して、小説に集中するだろうと考えたんだろう。だから、少しの休憩中に読み終えるページ数の本をチョイスしたのかもしれない。
宮代さんの推理力がちょっと怖い。
表紙を開いてみると、作者はあの小説と同じ作者だった。同一作者の、こちらは短編集のようだ。ページ数だけでなく、作品のチョイスまで抜け目ない。
……そういえば、この場所に早朝以外に来たのだって、初めて宮代さんに会った放課後以来だ。
「…………不思議な感じだな」
優しいそよ風に頬を撫でられて、俺は物語の1ページ目を開いた。
最初の短編小説は、なんという偶然か。花の妖精の物語だった。
つい先程のサッカーの試合で、観客にいたファンふたりが話していた内容を覚えているだろうか。汗が命を宿し花を咲かせるなんていう、ファンタジーの話をしていたじゃないか。まさか、そこまで偶然が重なったりしないよな。
つーか、俺は読みたくないよそんな妖精の話。せめて涙にしてよ。涙に命を宿す力があるなら、それとなくファンタジーになるでしょ。
若干臆病になりながらページを捲れば、まぁ、当然だけど違った。
あのファンふたりの強烈なファンタジーは忘れて静かに読書を楽しむことにする。
たまに小鳥が来て囀 ずる程度で、あとは風に植物が揺れる音のみのこの空間で、俺が読書に集中出来ないわけがなかった。
そして俺は、宮代さんの睨んだ通り、この本を読み終えるまで現実世界に戻ってこなかった。
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