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……………あれ…………?
少し肌寒くなって、俺はゆっくりと目を開ける。
まだぼやける視界の中で、自分がいつの間にか眠ってしまっていたことに気付いて慌ててベンチから起き上がる。
!!?今何時だ!?俺何やってた!?
寝落ちする前の記憶をかき集めようと周囲を見渡せば、宮代さんが向かいのベンチに座って本を読んでいた。
「……ぁ、あれ……?」
「おぅ、おはよう」
「おは……?ぇ、俺……ここで少し休憩してて……?」
宮代さんの穏やかな挨拶に、益々混乱する。クラスマッチサボって何やってんだって言われると思ったんだけど、え、……まだ、セーフ……なの?いやでも、空の色は完全夕方だし……!?
「クラスマッチは…………?」
「無事終わったよ」
「!!??うわっ!じゃあ俺やっぱりずっとここで爆睡してて…………!?」
「そうみたいだな。」
はは、と笑って特に何も言ってこない宮代さんに疑問を抱く。何故、怒られない?宮代さんは仮にも生徒会長なのに……。
「……あの、すいません。……でも、決してサボったわけでは……」
「分かってるよ。相当疲れてたんだろうな。声掛けても起きないし」
「ぇ゛…………」
「電話しても出ないから、まぁここにいるだろうと思ってきたんだけど…………」
「電話…………うわ、俺……ほんとすいません」
「ただ、ここにひとり残すわけにも行かないし、俺も読書して休んでた」
「叩き起こしてくれてよかったんすけど……」
「成崎は凄い気持ち良さそうに寝てるし、俺も少し生徒会の仕事休みたかったし」
な?と笑い掛けてくる宮代さんが優しすぎて、どうしたらいいか分からない。宮代さんは俺を、甘やかしすぎてる……気がする。
「……ぁ、この本、ありがとうございました。超面白くて!宮代さんの本のセンス最高です!」
「だろ?」
ふざけて威張る宮代さんに小説を袋に入れて、返そうと腕を伸ばした。黙る宮代さんは、本を受け取ろうとしない。その視線は腕に注がれている。
「…………」
「……宮代さん?」
「……怪我、大丈夫だったか?」
「……あぁ、これ……全然大丈夫ですよ。大袈裟にガーゼとか貼られてますけど、ほんと大した傷じゃないですから」
「……ごめんな」
「ぇ、いや、宮代さんが謝ることじゃないですって」
そんな顔しないでほしい。宮代さんには、今日は本当に救われたんだ。宮代さんから謝罪の言葉なんてほしくない。
「……宮代さん、ありがとうございました」
「?」
「本、読んで、休憩したら、モヤモヤしてた気持ちも整理できました。宮代さんのおかげです。救われました。」
「…………そうか」
俺が頷くと宮代さんは辛そうな表情を微笑みに変えた。そして何かを考えたあと、俺を見つめた。
「……少しだけ、いいか?」
「はい?」
そう言うなり、向かいのベンチから俺の隣へ移動してきた宮代さん。何をするのかとただ見ていれば、肩に腕を回されて、手で頭を傾けさせられた。そうなれば、自然と俺の頭は宮代さんの肩に乗っかるわけで…………
「…………ぇ?…………え!?」
「……何もしねぇから」
「いや、え?これ、…………???」
「もう少しだけ…………ごめん、成崎」
「…………べ、つに……」
謝られて咄嗟に顔を上げれば宮代さんの美顔が近距離であったので、俺は慌てて顔を下に戻した。
俺は別にいいんだけど!!いいんだけどさ??宮代さんの顔近すぎて、普段意識しない緊張?が押し寄せてくるし、そのせいで心拍数とんでもないことになってるし、それが宮代さんに聞こえてたら恥ずかしすぎるし、でもこの距離だから絶対聞こえてる気もするし……!?
大混乱する俺の事なんか置いてきぼりで、宮代さんは優しく頭まで撫で始めた。
甘えた彼女にしっかり者彼氏がやるイチャイチャシチュエーションじゃないですか!確かに俺は今ドキドキしてます!それは認めます!
でも俺は彼女じゃないですよ!それとも俺は犬ですか!?なんか癒されたいなって時に思う存分撫でさせてくれる犬がいたら、そりゃ撫でますよね!?そういう理屈ですか会長!?
「俺が……」
「はいっ……!?」
「成崎を守ってやれたらって思うけど……お前も男だし、そんなの願ってないだろ?」
「…………」
「だからせめて……、辛いときは頼ってくれるか?」
「………………宮代さん」
「ん?」
「俺を泣かせる気ですか」
「……ふっ、……泣きたいなら泣いてくれ」
「甘いっすね。俺はそんな簡単に泣きませんよ」
「だろうな」
「………………でも、あざっす、宮代さん」
「おぅ」
この体勢に不慣れ感も羞恥心もあるけど、俺は暫く宮代さんの手つきに身を任せた。
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