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藏元が1度帰ってから、数十分。
特に何もすることがなくて、いつもと変わらず俺は本を読んでいた。
1階のスーパーに、買い出しに行こうかとも思ったのだが、もしその間に藏元が来たら行き違いになってしまい厄介だと考えやめた。二人だけなら充分間に合うほどのお菓子もあるし、冷蔵庫に食材もある。いざとなれば、適当に作ればいいだろう。
と、緩く構えていた俺は相手があの“不意打ちの藏元”だということをすっかり忘れていた。
ソファーの上で寛いでいた俺は、インターフォンの合図で立ち上がり玄関に向かう。
ドアを開けると、風呂上がり後の藏元がいた。風呂に入ったことで、爽やかさが上乗せされた気がする。今ならマイナスイオン出してそう。歩くパワースポットみたい……。
「お待たせ。結構かかっちゃった」
「ん、大丈夫。本読んでたから」
「ほんと好きだね、読書」
「んー、読書なら何時間でもできるよ」
「それが大袈裟に聞こえないから怖いよ……」
藏元を部屋に入れて、その前を歩いていく。つけたままにしていたテレビの音がリビングから小さく漏れてくる。
「ぁ、成崎、今度は服着てる」
「ん?あぁ、あれだけ馬鹿にされればね」
「!馬鹿にはしてないよ!素足に驚いたってだけで……目のやり場が分かんなくて……」
「俺別に裸族とかじゃないから。普段は普通に服着てるから。さっきのは偶々だから」
「うん、分かった。……だから、ごめんって」
……でもなんか、藏元の反応、中学の男友達の反応と違うよな。
……あれ?これ、もしかしてさ…………
「……一応聞いとくけどさ、」
「うん」
「男友達と、ああいう格好で過ごしたことないの?」
「…………………………」
「ぇ何その沈黙……」
「…………ない」
「ぁまじか。じゃあ、俺が悪かったよ。ごめん」
だったら驚くよね。あいつ何故か下着だけなんだけど!って。突然変なもの見せんな!何のアピールだよ!変態!!ってなるよね。
自分の“常識”を他人に押し付けちゃいけません。
リビングに着いて、さて、何から始めようか。
「ぁ、成崎」
「ん?」
「これ、差し入れって程じゃないんだけどさ」
手に持っていたビニール袋から2個入りのイチゴのショートケーキを取り出し、差し出してきた。
「これ食べない?」
「ケーキ……?」
「うん。……成崎は、甘いものが好きだって、佐藤から聞いてさ、風呂入ってから、こっち来る前に下のスーパーで買ってきたんだ」
「…………!!!!」
で、出たぁぁあっ!!出来る男藏元!!
それサプライズとかで好きな女子にやるやつじゃん!わ、私の好きなもの知ってるの?ありがとう!ってなるやつだよ。やってることは完璧だよ!女子たちキュンキュンしてるよ!
でもね、完璧な男が、唯一間違っている点は、相手が俺だってこと!俺なんかの為にそこまで体力使うなよ。
はぁー……藏元、本当勿体無い。
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