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沸騰したお湯にパスタを入れる藏元の手はぎこちない。やっぱり、料理し慣れてないんだなって思う。 「甘いものが好きっていうのも……佐藤くんが、世間話程度に俺に教えてくれたんだけどね」 藏元の話に、相槌だけ打つ。何故か、口を挟む気にならなかった。 「……成崎のことは、他人から教えられたくなかったなって思った。……俺の我が儘だけどね」 そんなこと気にするなんて自分は小さいな。それを相手に言ったところで、相手を困らせるだけなのに。 そう思っているかのように、藏元はばつが悪そうな顔をして首に手を当てた。 というか、そう思ってるだろ?藏元。手に取るように、今考えてること分かるよ。 だって、俺も…… 「自分、面倒だなって思ったろ」 「え?」 「その矛盾してる感じ、モヤモヤしただろ」 「……そ、だね」 「凄い分かるよ。俺も殆んど同じ感情だったから」 「……?成崎も、経験あるの?」 「んー。正しく今日」 「今日?」 「髙橋から、藏元の前の学校のこと聞いたとき」 俺も同じだった事を伝える。近い距離だったから、友達だったから、“俺の方が仲いいのに”って、変な嫉妬をしてたんだ。 「…………あははは」 「何?」 「俺、成崎と友達になった気になってたけど」 「んー」 「そもそも、俺は転校してきてるわけで、1年から一緒のみんなより知ってるわけ無いし」 「そうだな」 「俺は他の皆より、まだまだ全然成崎のこと知らないんだね」 「…………」 明るく接する藏元の言葉が、胸の奥に引っ掛かる。藏元は当然のことを言っているんだ。間違ってない。ただ、それを肯定するとその逆も当然肯定することになる。 俺は、前の学校の生徒より藏元を知らない。その当然のことを素直に認めようとしない俺は、藏元より遥かにひねくれてる。 「……いい奴だってことは」 「ん?」 「藏元がいい奴だってことは、“元カノ”より知ってる自信あるよ」 「…………」 以前、付き合ってからイメージと違うと言われたことがあるかと言っていた。あの時の藏元の態度からして、決していい話ではなかった筈だ。だから、その話に関しては言い切れる。 イメージが違っても、藏元はいい奴だ。 勿論、そんなところに張り合ったってどうもならないけど…… 「……成崎」 「ん?」 「今日はさ、ご飯食べながら」 茹でたパスタを炒めた具材のほうへ移していく。その間も、藏元は優しく呟く。 「お互いの聞きたいこと、知りたいこと、話そっか」 微笑んだ藏元の提案が意外だったけど、俺は頷いてパスタを混ぜた。

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