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出来上がった和風パスタは、一口目を食べた藏元がすぐに旨いと誉めてくれた。 藏元の性格上、人の作ったものに不味いなんて言うやつじゃないと思うから、お世辞含みだろうけど。 「成崎、自己流とか言ってたけど……かなり出来るじゃん料理」 「そこまで誉められるほどのもの作ってないんだけど……」 「いや、有るものでここまで作れるなんて俺からしたら相当だよ!」 「あーそー」 俺が思ってるより、藏元の料理レベルは低そうだ。……まさか、卵かけご飯を料理に分類してしまうような、そんなレベルじゃないよな? 「料理はよくするの?」 「余裕あるときはね。なるべく食堂の人混みに行きたくないし」 「あー確かに。前に気になって覗いてみたけど凄い混んでた」 「覗いてみただけ?入ってないの?」 「うん。心折れて……。今はスーパーで買って済ませてる」 「1回くらい入ってみれば?食堂の料理、混むのも納得できるくらい旨いから」 「へぇ、じゃあ……機会があれば」 パスタをフォークに巻く藏元は、今は全然行く気がないようだ。覗いてみた日が大混雑の日だったのか、空いているイメージが持てないのだろう。 「藏元は、今まで全然料理してこなかったの?」 「うん、全く。包丁とかフライパン触るのは、家庭科の調理実習の時くらい」 「…………ある意味、徹底してるね」 ……卵かけご飯説、濃厚だな。 「あはは……班の女子に指示されたことをただやってたよ。今日みたいにね」 出来ない藏元に、それでも女子たちは喜んで教えたんだろうな。他の男子には、そんな事も出来ないのかと怒る女子たちの光景も目に浮かぶ。女子による顔面格差社会は残酷だ。 「それでよく寮に入ろうとか思ったな……自炊を推進してる寮だったらどうするつもりだったんだよ?」 「早急に友達作って助けを求めるつもりだった」 「最初から他人頼りか。もうちょっと料理やってみようとか、チャレンジ精神無いわけ?」 「……ほんと、食堂もスーパーもあってよかったよねぇ」 「………………そーね」 自炊は、今は解決したから挑む気無し。料理に無闇に手を出す必要も無し。 でもじゃあ、嫌煙するくらい料理が苦手なのに、なんで寮に入ったんだ?身の回りのことは基本自分でやるのが、寮での常識なのに。 ……いきなりそこまで突っ込んだこと聞いていいことなのか? 「……成崎、」 「ん?」 「気になることがあればどうぞ」 「え?」 俺がぐるぐる考えていると、藏元が顔を覗き込んできた。 「今聞きたいことがあったんでしょ?顔がそんな表情してた」 「ぁ、んー……そう、だけど」 「お互い、言いたくない事とか、言えるタイミングとかあるから、無理な時はハッキリ断るとして……まずは気になる事、言おうよ」 「…………」 手を合わせて、御馳走様と言った藏元の表情は堅苦しくはないが真剣だ。お互い歩み寄ろうと努力している藏元に対して、俺はあれこれ考えてまた今までと同じ選択をしようとしていた。これじゃ駄目だ。 少しだけ背筋を伸ばして、隣に座る藏元のことは見ずに口を開く。 「……前の学校、スポーツ強豪校だったんだろ?」 「うん」 「藏元、スポーツ得意なんだろ?」 「うん」 「じゃあ、……なんでこの学校を転校先に選んだの?」 だってここはそれほどスポーツが強い学校じゃないし。ぁ、髙橋みたいな奴は例外として。 どちらかというと、勉強重視で、進学校に近い……。 いや、回りの人たちみんなピンク色でキャッキャやってるから本当にこいつら頭いいのかよ?大学行ける脳みそなの?進学なんかくそ食らえ!燃えるような恋をしてやるぜ!みたいな、恋愛選んでる人の方が絶対多いでしょ?とかよく思っちゃうけど。結構思っちゃうけど。 みんなちゃんと頭がよかったりするんだよ。 それでも、正直、この学校に藏元は勿体ない気がする。 保健室で俺と髙橋がこの話をしていたことを知っている藏元は、この質問を既に予測していたのかもしれない。 藏元は薄く笑って、俺と向かい合うように二人掛けのソファーに膝を立てて座り直した。 「結論から言うと、逃げてきたんだ」

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