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「でも、新生活の寮として選んだ寮がここって、最悪だな」
「ぇ、そう、かな?」
……え!?藏元!?お前まさか、お前までこの学校色に染まってしまったのか!?
「は!?そうだろ!!男子校で、しかもゲイとかバイばっかり!!共学だった藏元なら、余計驚愕!!……あ、ダジャレになった」
「言葉遊びのクオリティ低くなってるね」
「うるさい!」
「ふははっ……んー、そうだね。衝撃は凄かったし、今もあんまり慣れないよ」
「だろ?ここで果たして勉強に集中なんて出来るんだろうかって不安になっただろ?」
「なったなった。絶対馴染めない、また転校しようかくらいまで考えたし」
「だよなっ」
藏元の意見にうんうんと頷いてガラスコップを手に取る。俺の入学して間もない頃を思い出しながら、喉を潤す。
「でも、馴染めないかなって思うのと同時に、じゃあ成崎はどうしてここで過ごせてるんだろう?って疑問ができたんだよね。ほら、未知の世界で唯一知ってる人種だったから」
「新世界で生き延びた古人、みたいな?」
「古人までは言ってないよ。……でも実際、成崎の存在に凄い救われた部分はあるよ」
「藏元さぁ、俺のこと大きく見過ぎだからね?別世界で見たから凄く見えてるだけで、よくよく考えてみるとやってることはフツーだから」
「成崎は、謙遜し過ぎ」
「はぁ?」
呆れる藏元はウーロン茶を再度飲んだ。俺はケーキの乗った皿を取って、デザートタイムに入る。
「ケーキ、いただきます」
「どーぞ」
「…………うめぇ……!!」
口のなかにふわふわ食感の生クリームの甘さが広がる。
俺が2口目3口目と幸せを味わっている横で、藏元はケーキを食べずに何か考えている様子だ。
「……ん?ケーキ、藏元も食べれば?」
「うん……」
「……めっちゃ難しそうな顔してる」
「え?」
「今度は何悩んでんの?まぁ、俺じゃ解決できないだろうけど、聞くだけなら出来るよ」
ケーキを食べ進めながら、藏元をちらりと見る。
この上に乗ってる苺はもう食べてしまおうか、最後にとっておこうか?
「……成崎なら、解決できるんだよね。」
「?そうなの?」
「うん。ただ、俺が聞く側だけど」
「ん?」
「成崎に聞いていいのか、……そもそも俺は聞きたいのか、悩んでた」
「…………ぁ、今度は俺への質問ってこと?」
「そう」
「………………」
まぁ、それが当然か。俺は藏元の前の学校について聞いた。今度は俺が聞かれる番。でも俺、普通の人生だから、人に話せるような経験、したことないよ?
「……あんまり期待されても困るけど、藏元が聞きたいことなら、どうぞ?」
「………………うん、じゃあ、…………」
相当覚悟のいる質問なのか?やたら、神妙な面持ちだ。
「…………東舘副会長との事、教えてくれる?」
「……………………」
こ、これは予想外!……ぁ、ちゃんと考えれば保健室の件があるし普通か!
でも、さっきまで前の学校の話だったし、てっきり俺も中学の話振られるのかと……。いや待て待て。中学の話聞かれたって何もネタねぇわ。それこそ盛り上がんなくて空気的に死ぬっつの。回避できてラッキー。
「ぁ無理なら話さなくても」
「ううん、いいよ」
「……まじ?」
「んー。ただ、面白く話せる自信ないけど」
「そこ気にするところ?」
「だって、藏元のは色々ちゃんとした事情とか葛藤とかあって、俺的に聞けてよかったって思ったけど……。」
「大丈夫。俺は、成崎の話が聞きたいから」
「…………つまんなくても、クレーム無しな」
「了解」
俺はショートケーキの一番上に輝いていた大きな苺を、ついに口に放り込んだ。
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