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飲み終えたガラスコップをテーブルに置いて、隣に座る藏元を見る。端正な顔は真剣で、いつもより凛々しく見える。 「…………どうかした?」 「……東舘副会長は、初めて成崎に会ったときから、成崎の何かに気付いてたんだね」 「……あの人の気まぐれで意味深発言して、俺たちを困らせてるだけじゃないの?」 藏元もコップを置いて、俺と向き合う。藏元は未だにケーキに手をつけていない。 「違うと思うな……何となくだけど、あの言葉の意味分かった気がするし」 「!!ま、まじ?どういうことだったの?」 「…………あの人が成崎を大事に思ってるのは確かだよ」 「…………それは一番無いと思うんだけど……」 「ううん。だから、成崎のことを思ってはっきり言わないのかもしれない」 「…………俺、東舘さんに気に入られるようなこと1度もしたこと無いんだけど?」 「特別に感じる瞬間は人それぞれだよ」 その言葉は非常に説得力があって、何も反論できない。 入学当初、俺の知っていたノンケ仲間は今では一人残らず全員彼氏あり。あいつらは、今の恋人と出会って価値観を覆すような特別を感じたんだろう。その現実があるから、有り得ないなど有り得ない。 「………………」 「東舘副会長が何かを考えてるのも確かで、それを無視して、俺が成崎に、憶測だとしても、教えていいのか分からない」 「…………分かった」 「……ごめん。でも、成崎の為だったらって考えると」 「うん、大丈夫。分かったから」 「…………」 納得したような返事を言っても多分、俺は不満な顔してたんだろうな。藏元が申し訳なさそうに俺を見てる。今の話の流れで、藏元が気を使う必要なんてどこにもないのに。 「…………1つだけ、教えてほしい」 「……何?」 「東舘さんは、藏元のこと邪魔だって言ってたよな……」 「…………そうだね」 「今後…………その……」 「…………」 「やっぱり…………俺との……考え直す…………とか、」 「成崎が拒絶しない限り、俺は今後も友達だよ」 「!……なら、いいんだ」 綺麗な顔の優しい笑みに、俺も照れくさくなる。 俺は自分が思ってた以上に、ひとりが嫌になっていたらしい。今後も、友達がいることに、藏元がいることに、素直に喜びを感じる。 「……つか、ケーキ、忘れてない?」 「ぁ、うん、そうだった」 すっかりケーキの存在を忘れていたらしい藏元は漸くその皿に手を伸ばした。 「……あのさぁ」 「うん?」 「スポーツは、得意、なんだろ?」 「うん」 ケーキを食べる藏元の手元をなんとなく見つめながら俺は純粋に気になったことを聞いてみる。 「じゃあ、藏元の好きなものって何なの?」 「…………えー……なんだろ?」 「休みの日とか何してんの?」 「…………なんだろ?」 「えー……?そんな感じなの?」 「つまんなくてごめんね」 「それは思ってねーけど……」 視線を下に反らして、立てていた膝に顎を乗せる。なんとなく、藏元が楽しいと思うこと、共有できたらいいのにと思ったんだ。 「ぁ、休日してること、……」 「何?」 「たまにだけど、映画観てるかな」 「いいじゃん。じゃあ今度藏元のおすすめ映画教えてよ」 「人に薦められるほどは観てないけど……」 「じゃあ観たいと思ってる映画とか、今度は映画鑑賞でもしようよ」 「…………いいね」 「だろ?」 「じゃあ、……はい」 ショートケーキに乗っていた苺を、プスッとフォークで刺して差し出してきた。 「ん?」 「お礼の苺」 「何それ?お礼ってなんだよ」 「いらない?」 「……いる」 いるかいらないかだったら、勿論いる。何のお礼なのかは知らないけど、差し出されてるし、遠慮なく貰ってしまおう。 俺はそのままフォークに噛み付いた。 「…………」 「……?やっぱり返せとか無理だからね」 苺を味わっていると、何故か目を見開いてガン見してくる藏元。まさか、冗談で差し出した?……どんまい。手遅れだよ。 「ううん、……可愛いなって」 「……眼科行け」

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