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「可愛いんだけどさ、」
「それ誉めてるつもり?嬉しくないからね?男子から可愛い言われても謎なだけだからね?」
「でも、そういうこと簡単にやっちゃう成崎、隙だらけでちょっと心配」
ケーキをフォークで切りながら、ため息混じりに言われる。……そういうこと?一体何を心配してるんだ?
「……だ、大丈夫だって。貰えそうな苺しか貰わないから」
「……そんなことは心配してないよ」
「…………?」
呆れたとでも言いたそうに頭を抱えられた。
何が言いたいのか分からずさ迷わせた視線が、偶然時計にとまった。
「……なぁ藏元」
「何?」
「俺が昔話を長々としちゃったせいでさ、時間が……」
「……ぁ」
「いや、でも、今日はどの部屋もお祭り騒ぎだと思うし消灯時間無視してると思うんだけど」
「……じゃあまだ出歩いても問題なし?」
「……つーか、明日休みだし……泊まる?」
「え……?!」
「ほら、俺の部屋、同室者いないから、部屋余ってるし」
「……そっか」
「藏元の同室者が了承すればだけど……」
「……そうだね。ちょっと電話してみる」
電話を掛け始める藏元の横で、その光景を見守る。思い付きで言ったけど、友達がお泊まり……なんか……友達って感じだ。
数回呼び出し音が鳴って、聞こえてきた向こう側の音。数人の騒ぐ声、こっちとは全然比べものにならないほど大騒ぎしている模様。
『もしもし、藏元くん?』
「楽しんでるところごめんね。今ちょっといい?」
『全然いいよ。てか、部屋に帰って来なよーみんな藏元くんに会いたがっててさー』
先手を打たれた藏元。クラスメイトの斎藤は比較的温厚なタチだ。藏元に対してその気があるわけではないと思う。……けど、クラスマッチで活躍した藏元と話したい、近づきたい、斎藤も斎藤の友達もそう思って集まったのだろう。
「…………斎藤、その事なんだけど」
「藏元」
「?」
「今日はやっぱ、帰ったほうがいいかも」
「…………」
藏元は友達だ。1番仲が良いって胸を張って言いたい。でも、他の友達ができるかもしれない機会を潰してしまうのは、なんか違う気がする。
「……斎藤、」
「…………」
「俺、今日は成崎のところに泊まるから」
「!?」
『ぇお泊まり!?』
「うん、連絡遅れてごめんね」
『そ、それはいいけど…………藏元くん?相手は……成崎だぞ?』
何かを探るように電話向こうから呟いている。
……いや、その電話の隣に俺いますけど。俺の話するなら、聞かれていいならともかく、俺が周辺にいるかどうか確認してから話せよ。
『あいつノンケだぞ?この学校で1年過ごしても変わらなかった、正真正銘のノンケだぞ?』
「あの、……だから?」
『いくら藏元くんでも、成崎だけは抱けないと思うよ』
「!!!?」
『だからさ、成崎より数倍可愛い子集めたから、こっちに戻ってきて新しい扉を』
「斎藤おぉおっ!!」
『っ!?成崎!?』
「邪悪な勧誘やめろ!!藏元は俺の友達でそういう関係ではありません!ただ泊まるだけだから!!つか俺は可愛くないですか!?いや知ってるわ!わざわざ言われなくても自分がよーく知ってるわ!ご丁寧にどーもっ!!!」
我慢できなくなった俺は会話に割り込んで一方的に怒鳴ると返答も聞かずに電話を切った。
「……………………」
「…………予備の布団出すね」
居たたまれない空気から逃げるようにそう言って、ソファーから立ち上がる。
「……成崎」
「ん?」
振り返ると、ソファーに座ったまま俯く藏元は、拳を握っている。そして、顔を上げた藏元は、真剣な口調で呟いた。
「……一緒に寝てもいい?」
「────っ!?!?」
「……………………」
「…………………………」
沈黙。
なんて答えたらいい?これはどういうことだ?さっきの電話の流れからそれ言っちゃう?かなりまずいタイミングで言って……ん?
「お前、…………」
「…………」
「……ふざけてるだろ」
「ぁ、バレた?」
吹き出す寸前の藏元目掛けて、俺はソファーにあったクッションをぶん投げた。
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