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幸せな夢を見ていた気がする。暖かくて、柔らかくて、心地いい夢。 その夢から覚める感覚も穏やかだった。それは多分、眠る俺の髪を優しく撫でているその人の手のおかげ。 まだはっきりしない意識のなかで、優しい手をあの時の感覚と重ねる。あの大きな手は、照れくさかったけど俺を勇気づけてくれた。 「宮……代、さん……」 励ましてくれた宮代さんの優しい声が、笑顔が思い出される。寝惚け眼でうっすらと見えてくる視界の先に、俺を撫でる人が見えた。 「成崎」 「……藏、……?」 窓から差し込む旭を浴びて、眩しいイケメン。寝起きにその輝きは目に刺激が強すぎる。 「おはよ、成崎」 「……?……藏元!?ぇ、何してっ……!?」 「誰かがインターフォン鳴らしてるんだけど、俺出てもいい?」 「えっ、あ、うん……お願いします……」 驚いて跳ね起きた俺に微笑むとベッド横から立ち上がって、藏元は寝室から出ていった。 ……あ、そうか。昨日泊めたんだった。で、来客に気づいた藏元は、全然起きてこない俺に知らせに来てくれたのか。 ……じゃあ、あの手の感覚は藏元の……? ベッドの上に座り直して、左手を頭に乗せてみる。確かに、撫でられていた気がする。 ……何で撫でてた?あいつ、そういうとこ本当読めないっていうか、藏元らしい不意打ちっていうか………… 「……ん?あ、れ……?」 俺、寝惚けて変なこと口走ってなかったか?え、やばい。全然思い出せない。何も言ってない?セーフ?藏元、何も言ってこないし大丈夫? 「どわぁあぁあっ!?」 「????」 考え込んでいた俺のもとへ、そんな大声が響いてきた。 あんな奇声、藏元が上げる筈……無いとは言い切れないけど。どちらかと言うと聞いてみたいけど。多分、藏元が叫んだんじゃない。来客者か?朝っぱらから何事だ? ベッドから降りた俺は、Tシャツ、スウェット、裸足というだらけきった格好で玄関に向かった。 「なんなの今の奇声」 「ぁ成崎」 「成崎ぃい!!」 そこに顔を出せば、振り向いた藏元と、玄関に立っていた髙橋と渡辺。 「……朝からうるさいよ。何しに来たの」 「ご、ごめん!俺、お前らがそういう関係だって知らなくてっ……!」 「……は?」 「二人の時間を邪魔するつもりはないんだ!ごめん!帰る!行こう渡辺!」 「ぅ、うんっ」 「ちょちょ、待てーー!!」 誤解したまま帰ろうとするふたりを、寝起きの喉を酷使して呼び止めた。 「違うから!勝手に変な方向に持ってくな!藏元は泊まったけど別部屋だから!」 「……ぇ、でも、成崎の部屋なのに藏元が出たってことは、もう同棲してんじゃ……?」 「俺が寝起きですぐ出れなかったから代わりに出てくれたの」 「……あの後だったから、服着るのに時間かかって……とかじゃないの?」 小声で、恥じらいつつ呟いた渡辺に、藏元がパチクリと瞬きをした。 「あと?」 「藏元、そこ掘り下げなくていい。渡辺、違うから。前も後もないから。服はずっと着てたから」 「ご、ごめん成崎くん」 おいおいおい。渡辺までなんで顔赤らめてんの。勝手に照れてんじゃないよ。 ……て、ちょっと待て。なんで俺が藏元と仲良くしてるとみんなそういう反応なんだ。俺はノンケで知られてて、他の人と一緒にいてもそんな反応されないのに、なんで藏元の時だけそうなるんだよ。……なんか変じゃない? 「成崎、あの、……違うんだな?!」 「理解したら帰ってくれる?休日の早朝に来るとか眠すぎて無理」 「あ!そうだった!目的はさ!」 目的ちゃんとあるんだ。……当然か。目的無しに他人の部屋に休日の早朝に押し掛けるなんてどんな嫌がらせだよ。 「今日は藏元と、スポーツがしたいんだ!」 「……俺?」 その発言が予想外だったらしい藏元は驚きを露にしている。そうだよね。だって俺の部屋に髙橋たちは訪ねてきたんだから。藏元に用があるなんて、俺も驚いた。 「ぇじゃあなんで俺のところに来たの?」 「そ、それは……その、……藏元ひとりじゃ……緊張するし」 珍しく歯切れの悪い口調の髙橋。普段、人見知りや優柔不断なんて縁の無さそうな髙橋が口ごもっている。 ひとりじゃ緊張する?藏元が、髙橋とふたりで遊ぶのに緊張するって言いたいのか?……藏元のこと、そんな風に見えてるのか? 「…………藏元は緊張とかは」 「成崎くんも行こうよ。俺も付き添いだし」 否定しようとすればそれを拒むように渡辺が誘ってきた。付き添いって……スポーツやってるふたりを観にいくの?……観客役? 「…………俺は遠慮して」 「行こうぜ成崎ぃ!」 聞けよ。 「……いやそもそも藏元だって、」 「や、やるよな?藏元!」 「……じゃあ、朝御飯食べてからでもいい?」 「………………まじか」 ……藏元は、どんなやつにも優しかった。

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