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「ぁ、あーん……」 「っ……んー!うまい!」 なんで……どうしてこうなった。 目の前で、俺と藏元は“カップルのあーん”現場を見せつけられていた。 朝ご飯を所望した藏元に、何故か髙橋と渡辺まで食べたいと言い出し、勿論俺の部屋に4人分のご飯の食材などなかった為、その会話の流れで食堂に行く羽目になった。 休日の朝7時。しかも昨日はどこの部屋もお祭り騒ぎで夜更かししていた事もあって、幸い食堂はほぼ貸し切り状態だった。 それだけに関して言えば最高だ。自炊は休めるし、藏元にも食堂のご飯を食べてもらえるし、イケメンといるけど人目を気にしなくていい。 しかし、人目を気にしなくていいのも大概だ。 テーブルを挟んで向かい側、横並びで座る髙橋と渡辺はさっきからずっと交互に“あーん”を繰り返している。渡辺は1回毎に照れて、髙橋は1回毎に満面の笑みだ。 二人が幸せならいいよ。いいけどさ、俺と藏元も、言ってしまえば他人だということを忘れないでほしい。 「……はぁ……」 イチャイチャをずっと見せつけられている俺はため息を吐いて、鮭定食に視線を落とした。せめてもの救いは、彼らと同じトーストセットにしなくてよかった。 「大丈夫?食欲ない?」 隣で鯖の塩焼き定食を食べていた藏元が、俺の様子を心配してきた。他人の異変に気づく早さに感心する。 「……大丈夫。気まずかっただけだから」 「……あぁ、ふたり?」 「んー」 「……見るのは意識するんだね」 「ん?」 「昨日成崎もしたくせに」 「……ん?」 「成崎は無防備過ぎ」 「……ん?」 箸を止めて固まる俺を気にせず、藏元は鯖を食べ進める。俺が真意を探っていると向かいの席から、モグモグとトーストを頬張る髙橋がこちらを向いた。 「成崎は、彼女、欲しいの?」 「………………」 …………え。何その質問。藏元と渡辺が、めっちゃ見てくるんですけど。つか、それってこの学校じゃタブーな質問で、暗黙の………… 「……今は、求めてないですし引き取り手もないです…………けど、…………何か?」 「おいっまたその圧やめろよ成崎っ」 髙橋は口のなかにある物を流し込むように飲み物を飲み干す。それで食事は終わりらしい。渡辺も残りわずかのスープを飲めば完食だ。 「恋したくないの?」 「……なんでそんなこと聞くの?」 「俺とは全然違うからさぁ。成崎はあんまり興味ないのかなって。人間に」 「俺のことサイコパスとでも思ってんの?」 「そこまでは言ってないけどさぁ……じゃあどんな子がタイプなの?」 「…………」 何故そんなことをここで聞いてくるのか、どんな興味を持ったのか、他のふたりがどういう感情で聞いているのか、分かることが何一つない。どう答えて切り抜けるのが正解なのか全く分からない。 「…………じょ、」 「じょ?」 「常識ある人……」 「………………つまんねぇええぇえ!!!」 だよね。それ俺も思ったよ。 「常識あったらなんでもいいの?ユーモアのセンスは?スポーツのセンスは?服のセンスは?」 「なんでもいいってわけじゃ…………ぁ、読書好きな人がいい……のか?」 「俺に聞くなよ!成崎の好きなタイプだよ!」 別に相手の趣味なんて相手が好きな事なら何でもいいと思うし、服もスポーツも好きなもの選べばいいと思うし……て、そもそもタイプってなんだ? 「あーもう!知らない!考えたことない!分からない!」 「……じゃあ、」 髙橋の追及に俺が限界を迎えたとき、隣から別の声が参加してきた。 「ん?」 「成崎は、甘えたい?甘えられたい?」 まさか、まさか君までこの会話に参戦してくるとは思ってなかったよ。しかもなんだよその質問。あるあるの質問でガチの質問っぽいじゃん。ますます謎の空気になるじゃん。 「ぇ……さ、さぁ……?」 「普段励ます側でしょ?励まされると嬉しいと思わない?」 「…………嬉しい、……かも?」 「……甘えたいんだね」 藏元の一言に、顔が急激に熱くなる。ぶわっと赤くなる俺に、髙橋は図星かよと笑いながら喜んでいる。 「違っ、藏元!俺はそんなことっ」 「じゃあ成崎はしっかり者が好きなんだなぁ!で、甘えたいのか!」 「うるさい髙橋!違うから!」 「それなら宮代先輩に懐くのも分かるわぁ」 「「………………」」 髙橋の考えなしの一言にその場が凍りついたのは言うまでもない。

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