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相変わらず汚い机で、プリントや教材を器用に重ねて避けて、その空いた僅かなスペースでズッキーは昼食を食べていた。
毎回物を退けて作業するなら1度に片付けてしまったほうが今後楽だろうに、それをやらないのはズッキーらしい。
「早いなぁ成崎」
「昼飯後回しにしたんで。」
「俺を優先しなくてもいいんだぞ」
「大丈夫です。俺の昼飯を考えた上で、消去法で先生の用事を先に済ませることにしたので」
「素直なところは先生大好きだよ成崎」
「別に好かれなくていいんですけど」
「ツンデレかよー!それにイケメンたちは悉くやられてるわけかー」
「はい?」
「まぁまぁ座れって!」
意味不明なことを言ってくるズッキーに首を傾げれば、ズッキーは隣の机の椅子に座るよう促してきた。そこは教員が使用していない席らしい。
「座らないです。用件を早く言ってください」
「……あのなー」
「なんすか」
「係の仕事は確かにあるんだけどな」
「なかったら俺無駄足じゃないですか」
「それとは別にさぁ」
「……は?」
「俺も成崎の相談窓口利用したいんだよね」
「………………」
馬鹿言わんでくれよ。立場逆だろ。生徒の相談を教師が受けるんだろ。俺がズッキーの相談受けてどうすんだよ。
「嫌っすよ。そういうのもう間に合ってるんで、他当たってください」
「他がいないから言ってんだろー?」
「おかしいでしょ、俺が先生の悩み聞くなんて」
「頼むよ成崎ぃ」
あー面倒くさい。全然諦める気配ないから出直そう。放課後来ればズッキーも諦めてるだろうし。
「放課後また来まーす」
「ちょ、成崎!待て!」
「だから嫌ですって、」
振り返った俺に、ズッキーはニヤリと笑った。
「ただとは言ってないだろ!」
「…………?」
「某有名スイーツ店の1日20個限定いちごシュークリーム、やるよ」
ズッキーが俺の目の前に、シュークリームを掲げてきた。ズッキーのムカつく顔の前で、袋に入ったいちごシュークリームが揺れている。
「…………」
「俺は甘いもの苦手だからな、成崎が食べないならこれ、無駄になるなぁ」
「……っ…………」
「でも、有名店の、しかも限定商品、旨いんだろうなぁ」
「……仕方ないっすね」
「お?」
「シュークリーム1個で、手を打ってあげましょう」
シュークリームを受け取り、空いている席に座る。ズッキーの思うつぼかもしれないけど、シュークリームに罪はない。
「ありがとう成崎ぃ」
「で、まず係の仕事っすよ。なんすか」
「このプリント、テスト予定表配っといて。計画表も一応配っといてくれ」
またプリントの山を渡される。いつぞやのプリント程じゃないが、今回もそこそこある。何故ズッキーは溜め込むんだろうか。
「…………でなぁ、相談の方なんだけどな」
食べ終えた弁当を片付けながらズッキーは重い口調で話し始めた。
「俺さぁ…………最近あいつと上手くいってないんだよね……」
「…………」
嘘だろ。てっきり生徒について悩んでるとかだと思ってたのに。まさかの恋愛相談。なんで昼休み潰してまで、教師の恋愛を聞かなきゃならんのだ。
「そりゃあ俺は社会人で、あいつは学生だ。時間のすれ違いは覚悟してたさ。」
「……あの…………」
「ただなぁ……最近俺が忙しくてさ、あいつのツンが無くなるくらい会えてなくて……」
「…………えー、とですね……」
「素直に甘えてくるほど、余裕無くなってたんだよな……あいつ」
「…………かっこつけんな、キモい」
遠くを見つめるズッキーに吐き捨てて、シュークリームに噛み付いた。
なーにが余裕無くなってた、だよ。俺が全然青春できてないのに、あんたが青春謳歌してんじゃねえよ。
「なぁなぁ俺どうするべきだと思う?やっぱ胸キュンするようなことしてあげるべき?」
「知らねえっすよ。つーか先生、胸キュンさせられるんすか」
「それはお前が教えてよ」
「はぁ?なんで俺が」
「お前はそういうテクニックがあるからイケメンを次々落とせてるんだろ?」
…………なんだそれ。どっからそんな話になったんだよ?
落とせてる?俺が何処に落とすって?落とし穴なんか掘った覚えないですよ。肩落とすくらいガッカリされたことはあるけど……。
「テクニックってなんですか。そんなの知らないっすよ」
「え!?成崎の素の実力だって言いてえの!?意外と自信家なんだな!!」
「ちょっ、そんなこと言ってません!」
「じゃ、じゃあさ」
俺の話なんか聞かないでズッキーは俺と向かい合うと、俺の両手をガシッと掴んできた。
「こうされたら、どうすんの?!」
「…………は?」
「両手を掴まれて見つめられたら、お前はどうすんの?!」
……ど、どうすんのって…………。まず髭剃れ、髪整えろ、歯磨け。
そして俺はズッキーの今の顔をこの至近距離で見れるほどの忍耐力を持ち合わせていない。
職員室で、訳のわからない状況に立たされた俺が対応に困っていると背後から突然肩を掴まれてズッキーから引き離された。
ローラーの付いている椅子ごと後ろに滑っていく。
うぇーい。小学校のとき、こういう椅子で滑って遊んだなー
「!?」
「???」
「生徒に脅迫はやめてくださいね、鈴木先生」
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