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「!宮代さんっ」
「違う違う。誤解だぞ宮代。これは脅迫じゃなくて懇願だ」
「懇願?……成崎に、ですか?」
「そうだ」
「……何をねだってたんですか」
ベラベラと余計なことを喋る先生に、俺は冷や汗が止まらない。イケメンに、凡人の恋愛相談を聞かれるなんて悲しすぎるだろ。外見だけでなく、中身まで太刀打ちできないみたいじゃないか。……勝てる見込みはないけども!それでも男のプライドってやつだ!
「いいいいっ!なんでもないですから!」
「……なんで成崎が焦るんだ?」
肩に手を置いたまま宮代さんは首を傾げた。
ぐぅっ……!見上げてくる顔が可愛いとかはよく聞くけど、見下ろしてきて格好いいってなんだよチクショー!肌綺麗ですねっ!!
「ぁそうだ、宮代はどうするか聞いてもいいか?」
「何をです?」
な、形振り構わずですか先生ぇ!!先生に、男のプライドはないのですかっ!?
「王子様の宮代だったら、恋人が落ち込んでたり寂しそうにしてたらどうする!」
直球ど真ん中…………最初からイケメンに全力で白旗を振っているじゃないですか。
「王子様……が、どうするかは知らないですけど」
宮代さんは何故か一瞬俺を見てから、ズッキーに向かってそれはそれは美しい笑顔を見せた。
「俺だったら、際限なく甘やかしますよ」
「っ…………!!!?」
宮代さんの言葉が胸に刺さったらしいズッキーは、口を開けて固まった。
……まぁ、宮代さんらしい答えというか……。あの時もめっちゃ優しか……やめろ。その考え危ないからストップ俺。彼女にどうのとか、俺が考えることじゃないから。
「……では先生、成崎はもういいですか?」
「……ぁ、うん。おっけー、いいぞ」
「失礼します。成崎、行こう」
「はい……」
その意味不明なニヤニヤ顔やめてズッキー。今の外見も相まって数倍気持ち悪いよ。
当然のように手を引かれて、宮代さんと俺は職員室から出た。扉を閉めたところで、握られていた手が離れていく。
「……ありがとうございました、宮代さん。……助かりました」
「生徒会のことで他の先生と話してたんだけど、偶々成崎の姿が見えてさ……困ってたみたいだったから」
「物凄い困ってました。なので、本当ありがとうございます」
「……なら、いい」
甘く優しく呟いて、宮代さんは俺の頭を撫でた。
俺に、もし兄ちゃんがいたら、こんな兄ちゃんが欲しかった。
「……じゃあ、俺はこれで」
「……成崎」
「はい」
「なんか、……元気ないな。どうした?」
「…………そ、すか?」
元気ない……つもりはない。俺自身そう思ってるけど、宮代さんは俺の取り繕いも見抜いてくる。
「………………」
「………………」
職員室前で、沈黙のまま向かい合うふたり。
行き交う人はチラチラと視線を向けてくる。
そりゃ目立つよ。だって片方は生徒会長様だもん。あーどうしよう。こんなことしてたら、また変な噂がたってしまう……
俯いて回避方法を探していると、フッと息を吐く音が聞こえた。
「成崎」
「……はい?」
「俺の連絡先、まだ持ってる?」
「……ぁ、はい」
「なら……いつでもいいから」
「?」
「成崎からの連絡、待ってるから」
もう一度ポンポンと頭を撫でて、俺の返答を待たずに宮代さんは3年の教室があるほうへ歩いていってしまった。
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