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教室に戻って、プリントを配って、席に座ると、弁当の存在を思い出した。 ズッキーからシュークリーム貰って食べちゃったしな……あんまり腹減ってない。弁当どうしよう……。 シュークリームがご飯って言ったらまた藏元に怒られそうだな…… 「……ぁ」 ……藏元は、髙橋たちといるわけで、今ここにはいない。俺がシュークリームを昼飯にしたってバレなきゃ、怒られることもない。 ……何の問題もないじゃないか。 …………いつも一緒にいる友だちがいないと、こんなに寂しいんだっけ……? 「藏元くんと一緒だからじゃない?」 突然聞こえてきたクラスメイトの一言に、俺は肩を揺らして驚いた。そのクラスメイト3人は教卓付近で、少々声大きめの会話をしている。 「やっぱりそうだよね?髙橋くん、今まで以上に楽しそうに笑ってるよね?」 「あの王子様ふたりは気が合うんだよー!会長様と副会長様!髙橋くんと藏元くん!最強のコンビだよねー!」 「昨日は放課後バスケしてたじゃん。今日は何かな?見に行こうよ!」 「スポーツしてるとき、更にかっこいいもんねー」 ……ご、ごめんなさい。そんなところを注目する視線があったとは……!ファンの皆様は、個人ではなくコンビまで見るようになっていたのですね……! 隣にいても恋人じゃないし、あくまで友人と考えていた俺は甘かったのか……!? 机の上で頭を抱えて、自分の今までの行動を見直しているとガラリと扉の開く音がして足音が近くまで来て、止まった。 「成崎……?」 げっ……!このタイミングで来るのかよ……! 「ぉ、おかえり……藏元……」 「どうした?具合悪い?」 藏元の顔が見辛くて、両手で頭を抱えたまま呟くと、それは逆効果だった。俺のことを心配した藏元が、床に膝をついて机の横に屈むと見えない俺の顔に視線の高さを合わせてきた。 確認しなくても分かる。今、教室中の視線が俺たちに集まってる。クラスマッチの事もあるし、髙橋と仲良くなった藏元は、注目度が跳ね上がっている。 駄目だって……。この話題のなか何してんのお前……。髙橋といることを求められてんだよお前は……。俺は友だちがほしくて……でも藏元は注目される側の人で……。 俺は注目なんか、されたくないのに…… 「……成崎?」 「…………大丈夫だから」 「でも、いつもと違」 「大丈夫だからっ」 俺を心配して、俺の手に触れてきた藏元の手。 俺はそれを、あろうことか、払い除けてしまった。 パンッーー と、乾いた音が教室に響いた。 さっきまで、耳障りなくらい聞こえていたコソコソと話す声。それらは一切止み、水を打ったように静まり返る教室。 愚かなことをした。 そう理解するのに時間は掛からなかった。 「…………ごめん、成崎、嫌なことしたなら俺」 「…………違う……違うから。ごめん、」 藏元は不安そうに、戸惑いながら謝ってくる。俺はこの場から、藏元から、逃げたくなった。鞄を手に取って、前の席の生徒に早口に告げる。 「ごめん、早退するって先生に言っといて」 この逃げ方は1番やってはいけない手段だったのに、そう考える余裕すら俺にはなくて、足早に教室をあとにした。

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