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はぁー…………馬鹿だ俺。何やってんだよ。 あんな世間話、聞き流せるだろアホか。俺はノンケだよ、回りの人がどう見てようが俺には関係ないことでしょうが。あの人たちが髙橋と藏元を見たいって言ってても、藏元と俺は友だちだろ?ノンケとノンケだろ? 気にすることじゃ…… 寮の部屋に戻ってから、ソファーに寝そべって、ずっと天井を眺めている。 帰ってきたところで、後悔した出来事を思い返してしまうのは人間の(さが)。今さら考えてもどうにもならないことをぐるぐると考えてしまい、かれこれ数時間このままだ。 ……でも、いくらノンケ同士でも……藏元が友だち宣言してくれても、注目される側の人間に深入りしすぎたんじゃないか?俺が友だちに依存して、藏元に甘えてただけじゃないのか?回りが髙橋といることを望んでて、藏元も髙橋といることを望んでたら、俺が引けば済む話だよな……。 普通に接する事のできる髙橋が友だちになれば、藏元は何も俺といる必要はない。 俺が、藏元が転校してくる前の生活に戻れば……全部丸く収まるじゃないか。 「………………だよ、な……」 これで、あってる?俺の判断は正しい? …………誰か、教えてくれ…… 絶叫したいくらいの重たい気持ちが腹の奥に溜まっている気がする。 相談……なんて、誰にすればいいのか分からない。皆は、どうやって相談する相手を決めてるんだ? 「…………6時半……」 時刻を、ポツリと呟いてみる。 もう寮に帰ってきてるのかな……。まだ、生徒会の仕事してるかな。会長だもんな、忙しいよな…… ふと思い出した、あの優しい声。 “頼ってくれ” 連絡……していいのかな。宮代さんは優しい……。それを分かってて、俺は甘えていいのか……… 「……よし、ルールを決めよう」 悩んでいても全く進まない。ソファーから起き上がった俺は、自分に言い聞かせるために強い口調で呟く。 「電話を鳴らして、7コールで出なかったらやめる」 そう規定づけて、爆弾のスイッチでも押すように通話ボタンを押した。 プルルルルッ 「いち」 プルルルルッ 「に」 プルルルルッ 「さん」 プルルルルッ 「し」 プルルッ 『ーはい』 「でっ、」 出たぁあぁああッ!?ま、まじかっ……ぁ、いや、掛けたら出るのは2分の1だけど……! 「……あ、の……」 『成崎?』 「……す、ません…………忙しい、ですよねっ……」 『大丈夫だよ。むしろ、電話待ってたから』 「……ぇ……?」 『こんな早くに連絡くれるとは思ってなかったから、嬉しいよ。成崎は遠慮ばかりするからな』 「…………」 『……成崎?』 どんだけ優しいのあんた。俺の大したことない電話を待っててくれたなんて、お世辞でも嬉しいんすけど。 「はぁ……宮代さん、あざっす」 『何が?』 「……それだけで元気もらいました」 『やっぱり元気なかったんだな』 「……そんなことは、……」 『…………成崎、電話切る前に、俺からひとつ、お願いしてもいいか』 「珍しいっすね。……なんすか?」 『俺の部屋に来て欲しい』 「!?」 え!?て、ことは5階!?あの、関係者以外立ち入り禁止区域の、他人に見られたらほぼ死刑確定の、5階!? 「そ、それはまた……凄いお願いですね……」 『俺が成崎の部屋に行ってもいいなら行くけど、……お前嫌がるだろ?』 当たり前だろ。5階よりもこっちは一般生徒の部屋ばかりで人が多い。そんなところに生徒会長様が現れ、しかも誰かの部屋に入っていったと知れれば……考えるだけで恐ろしい。 「……やーでも、5階まで人に見られず行けるかどうか……」 『人混み嫌いの成崎くん』 「………………」 『成崎なら、何処が手薄か把握してるんだろ?』 会長様にはバレバレでした。そうだよ知ってるよ。人がいない場所、抜け道、穴場、大体把握してるよ。サボり場所万歳。 「……分かりました。行きます」 いつも俺を助けてくれる優しい宮代さんの、珍しいお願いだ。多少の無茶は、聞いてやりたくなる。 「着いたら、すぐ入れてくださいね」 『了解。待ってるよ』 電話を切った俺は、ソファーから立ってすぐに玄関に向かった。

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