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ファン交流勉強会とは、テスト期間に入って部活もその応援も出来なくなりストレスが溜まるファンたちに対して、じゃあ勉強会を一緒にやってテスト期間中でもアイドル様を見れるようにしましょうっていうイベント。
ファンたちは、自分たちが離れた隙に抜け駆けするやつがいるのではないかと気が気でないのだ。
だから、あらぬ誤解を防ぐためにもアイドル様はわざわざ姿を見せてはこんな交流会に参加する。
勉強会の日程は、アイドル様によってそれぞれ違う。テスト期間中に、アイドル様の都合のいい日に都合のいい場所で行われるのだが、それは特に表だって公表されない。
だから、アイドル様たちの勉強会日程を調査するよう俺が駆り出されるのだ。ノンケ以外の人が勉強会日程を複数調べたら浮気だと騒がれるらしいから、俺が教えたとなれば都合がいいんだろう。
というわけで、アイドル様の日程を小竹に頭を下げて入手した。
小竹相手だと、宮代さんや東舘さんの話、藏元の話など、根掘り葉掘り聞かれるので本当に骨が折れるがなんとか情報が貰えた。
昼休みの廊下を、日程をメモした紙を眺めながらゆっくり歩く。
……宮代さんと風紀委員長様はやっぱりやらないんだ。あのふたりは、そもそもファンを相手にしないもんな。
他の委員長様はみんなやるんだな……
……髙橋も、2回やるんだ……
ファンたちと勉強会するって、ちゃんと藏元に話してくれるよな……
心配になってきて紙を持つ手に自然と力が入る。
廊下の端に寄って、紙を折り畳んでポケットに仕舞っていると背後から肩を叩かれた。
「ぁ、」
「今少しいい?」
「うん、大丈夫だけど」
そこにいたのは渡辺だった。
同じクラスなんだ。何も廊下で話さなくても……と思ったけど、裏を返せば教室では話しにくいということか。
「あの、……髙橋くんのことなんだけど」
「あぁ、うん」
「……別れたよ、髙橋くんと」
「!?」
切なく笑う渡辺に、俺は衝撃を受けて言葉を失った。
“運命の人”じゃないと断言したあの日から、いつかその日が来るだろうとは思っていたけど、まさか今だとは予測してなくて驚きを隠せなかった。
「髙橋に……言われたの?」
「うん」
「……それで…………気持ちの方は大丈夫?」
「それが、思った以上に冷静なんだよね今」
「へぇ……」
見た感じ、そうだよね。俺の方が動揺してるよ……。
「好きな気持ちは変わらないけど、これからも友だちだからって言われて、それで満足してる。距離を置かれることもなく、これからも友だちでいられるならそれがいいなって」
渡辺は、俺が思っているよりもずっと冷静に、髙橋との関係を見ていた。その上で、髙橋とは友だちでいることが最善だと選んだんだ。
「髙橋くんとの関係だもん。すぐに噂は広まると思うけど、成崎くんには俺からちゃんと言っておきたいと思ってさ」
「…………俺なんかいいのに」
俺は保身のために色々やってただけなのに……
「……ぁ、それでね、交流会なんだけど、髙橋くんのにすぐ参加してもいいと思う?やっぱり今回は控えた方がいいかな?」
「髙橋は気にしないと思うけど……回りのファンがな……。髙橋は2回交流会やるみたいだから行くならどっちか1回にすれば?」
「分かった。ありがとう成崎くん」
背を向けて歩き出した渡辺を見て、俺は歯がゆい気持ちになった。
「…………渡辺!渡辺なら、大丈夫だよっ」
「!!……うん、成崎くんも頑張って!」
満面の笑みでそう言ってきた渡辺に、あとに残された俺は首を傾げた。
………………俺も頑張って?
………………何を?
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