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「俺は何すればいい?」 「じゃあ、……」 一先ず、考え事はやめてこっちに専念しよう。でないと、鋭い宮代さんに気付かれる。 「冷蔵庫に合挽き肉あるので、それ出してください」 「了解」 「あと、牛乳と卵もお願いします」 「はい先生」 ……ん? 「なんすか先生って」 「料理教室に通ったらこんな感じなのかなって」 その発言に思わずフッと吹いて、宮代さんを見上げる。 「宮代さんが料理教室!?めっちゃ面白いっすねそれ」 「面白いか?」 「似合わなすぎて」 エプロンつけて、集団に混じって、先生の話を一言一句漏らさないようメモして聞いて、慣れない手つきで真剣に慎重に野菜を切ってる宮代さん…………そんな事する人に見えない。全然見えない。 「……ふふっ……」 「お前な……」 「ぎゃっ!すいませんすいません!勘弁してください!包丁持ってるんで!!危ないっす!」 「まだ顔が笑ってんぞ成崎」 後ろから両頬を摘ままれ、ムニムニと押される。玉ねぎのみじん切りがまだ半分しか終わっていないのに、俺で遊び始める宮代さん。 「ねーちょっと!進まねえっすよ!」 「誰のせいだよ」 「いや俺じゃないでしょ!」 宮代さんが離れた隙に、みじん切りを俺自身最速で終わらせた。 フライパンで炒めて、きつね色になった玉ねぎを皿に上げる。 「卵、ボールに割ってください」 「おう」 卵を両手でしっかりと持って殻を割って、ボールに落とした。 「…………顔が笑ってるぞ。また何か余計な想像してたろ」 「んー……イケメンのあるあるで、ここは片手で卵割るよなーって思いました」 「出来なくて悪かったな」 「あー違います!そうじゃなくて!」 ニヤリと笑った宮代さんに慌てて訂正する。誤解されたままだとまた玩具にされる気がした。 「どっちにしても宮代さんの場合は、好印象っすよ。頑張ってるって感じで」 「やったことないから頑張るだろ」 「そっすねー」 あーくそ。完璧なくせに突然の不器用。ちょっと嬉しく思ってる時点で俺の敗けですよ。 「で、ここから何すればいい?」 「ハンバーグといえば、の行程っす」 「?」 「これっすよ!見たことくらいありますよね?」 両手で、空気を抜くためのあの独特のジェスチャーをする。 「あぁ、手から手に投げるやつか」 「それっす。」 冷ました玉ねぎとその他の材料を混ぜて、2個の固まりに分けた片方を持ち、パンパンと空気を抜きつつ形を整えていく。 一方、宮代さんはというと、肉の感触に戸惑っているようだ。その反応もまた、面白い。 「うわ……ヌルヌルだな……」 「油分もありますからね」 「手にくっつく……」 「その前に投げて空気を抜いてください」 宮代さんが投げると、ベチッと、なんとも粘りけのある音を響かせて具が少量飛び散った。 「……うわ……」 「ちょ……ちょっと、宮代さん…………」 下手……。予想以上に下手。これイジっていいやつなのかな。笑い堪えられるかな。 「……悪い……」 気まずくなったのか、宮代さんは視線を反らす。 ぁ、ごめんなさい宮代さん。やっぱ面白過ぎました。 「……くっ……あはは、やば。宮代さんってここまで料理下手なんすね!あはは、最高っ」 「あのなぁ……」 宮代さんは俺に呆れつつも申し訳なさそうに呟いた。いつもと立場が逆転した気になった俺は、明らかに調子に乗った。 「大丈夫、大丈夫。そのための料理教室ですから!先生の真似をしてくださいね、継さん?」 「…………!?」

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