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「えー無理。ひとりは無理」 ……ん? 「何言ってるのよーもう高校生なのよ。男の子なんだから甘えてないで頑張りなさい」 「俺は母さんと過ごす時間も大切にしたいよ」 ……え、ちょっと、……これってどっちなの? ノリでマザコン演じてんの?リアルで母親思いな子なの?それとも母親と過去に何かあって、思い出して記憶とダブらせて染々言ってる? どれ?声がリアル過ぎて全然分かんねぇよ! 藏元は窓の外を見ながら歩いていて表情が見えない。 「……気持ちは嬉しいけど、成長のためには必要なことなのよー」 どれが正解なのか分からず、俺は芋芝居を続ける。出来るだけ引き延ばして真意を探ろうという作戦だ。 「どっちも大切だよ」 ……正論だよ。親も友だちも疎かにしちゃいけないよ。だから余計、それはどっちなの?演技?本音? 俺が返答に困って模索していると、嫌な人物が廊下の曲がり角から現れた。そのふたり組は正面に現れると、俺たちを見るなりニッコリと超胡散臭い笑みを浮かべて近づいてきた。 「あれぇ、藏元くん、久道くんと会わなかった?」 例のサッカー部員が口を開いた。 チラリと俺に向けられる視線。藏元から離れろって言ったよね?と言わんばかりのムカつく視線だった。 「いや、会ってないけど」 「あーじゃあすれ違っちゃったかぁ。さっき、2Bに行くって言ってて、多分、藏元くんを迎えに行ったんだよね」 そこに俺は含まれてないよ、と遠回しに告げてくるそいつ。ご丁寧にどーも。 「そっか。何の用だろ?」 藏元は辿ってきた廊下を振り返る。このふたりは藏元が髙橋のところへ戻ることを望んでいるんだろうけど、こいつらの手助けをしてやる程、俺もお人好しではないので、何の後押しの言葉も発さずに俯いた。 「……ごめんって、髙橋に伝えておいて?」 「えっ、」 「久道くんは多分、2Bにっ」 「ごめんね、俺たちこれから用事があるから」 「……」 「ほんと、ごめんね」 呆然とするふたりの横を通り抜ける藏元に、俺も驚いている。立ち尽くしている俺を見て藏元が笑った。 「成崎、行こう?」 「……ぁ、はい」 何故か敬語になった。駆け足で藏元の隣に追い付いた俺は、歩きながら小声で聞いた。 「大丈夫なのか?」 「ん?」 「髙橋、ほっといていいのか?」 「すれ違いは申し訳ないけど、約束はしてなかったし」 「……でも、」 「先に予定が決まったのは成崎のほうだし」 ……今さらだけど、一度戻った方がよかったんじゃないか……? 「それに、あのふたり、これから髙橋のところに行くだろうし」 「ぇそうなの?」 「こっちに向かって歩いてきてたでしょ?」 「…………」 「髙橋のいる方向を向いてたら、ほぼ100%髙橋のほうに行くよ、あのふたりは」 流石、数日一緒にいただけあって、あいつらの行動心理を把握してらっしゃる。 「じゃあえっと……昼食、どうする?」 「売店で買って、外で食べよっか」 「だな。天気いいし、賛成」 丁度空腹を感じはじめて、俺と藏元はそのまま学校の売店に向かった。 その途中、宮代さんへの連絡を思い出した俺は、藏元に隠れてひとりハッとしたのだった。

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