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“怪物トロールが魔物を連れて夕方のスーパーに現れるので、アイテム調達は避けたほうがいいです”
と、他人が読めば一見、解読不可能なファンタジー溢れる一文を宮代さん宛に送った。
宮代さんなら呆れつつも理解してくれるだろう。
「今日のテスト、どうだった?」
学校敷地内にある噴水広場。その広場の芝生に座って、俺たちは穏やかな昼食時間を過ごしていた。
「まぁまぁってところかな。藏元は?」
「ちょっと自信あるなー」
「まじ?そう言えるってかっこいいわ」
「勉強会で人に教えるって、やっぱりいいのかも」
「人に教えると、自分の復習にもなるってやつか」
「まさにそれ」
……でもそれって同級生の場合だよな。宮代さんは俺に教えたところで、3年のテストに2年の範囲が出るわけないし……。
うわぁ……宮代さん損してるじゃん。気づくの遅いな俺。今日ちゃんと謝っとこう。
「つーか、勉強会。参加してたんだな」
「うん。髙橋に出てみなよって言われて。悩んでばかりじゃ分からないし、試しに参加してみたら、みんな結構集中してやってるから。特に支障はなかったよ」
集中して……て、そりゃ普段崇め奉ってるアイドル様と至近距離でテスト勉強ができるんだ。しかも、運が良ければ教え合ったりも出来るわけだからみんな参加する以上本気でやるだろうよ。
「……だから、集中もできたよ」
「うん、よかったな」
「……やっぱり、それでもこっちには参加しない?」
「……は?」
「もし回りのみんなの……歓声?であってるのかな……それが気がかりだったなら、全然」
……あー、藏元よ。俺が勉強会に行かない理由、ファンたちがうるさそうだから、だと思ってる?そういうことじゃないんだなー。いくら静かで集中できる場所でも俺は参加しないよ。
「ごめん藏元。俺はファン交流会には行かないんだ。去年も、誰の交流会にも、一度も参加してないよ」
ノンケの藏元が参加できたなら、じゃあ俺もできるだろって?
ノンケのアイドル様と、ノンケの平凡じゃ行動の制限が違うんだよ。
俺たちはちゃんと友だちだ。でも、最近、ごく最近だけど、藏元と離れて改めて気づいた。
みんなが見る藏元と、俺が見る藏元は、別人。そうなれば当然、俺たちに対する意見も変わってくる。
だから、ある程度の友だち関係を保った上で、俺は線を引かなきゃいけない。
「成崎が、誰かの勉強会に参加するなんて、絶対ないって髙橋に言い切られたよ」
「あはは、そう。髙橋の言う通りだよ」
「それも、分かるんだけどさ……」
「ん?」
「髙橋は、サッカー部のみんなと、……友だちと勉強してたから。そこにファンがいても、友だちと一緒に勉強してたから」
「……おぅ……?」
「だからもし俺が、……髙橋たちみたいに、勉強会を開いたら、友だちとして、俺の勉強会に参加してくれないかな?」
そ、そうきたか……。確かにそういう場があれば、ファンは喜ぶだろうし、個人的に俺と勉強するより嫉妬も減るだろう。まさか、自分からファンの前に立つ提案をしてくるなんて思わなかった。
「…………もし、本当に藏元が勉強会を開くなら……」
「うん……?」
「……3回に1回くらいなら、参加するかも」
「少ない上に“かも”って!!」
苦言を漏らしつつも、藏元は笑った。
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