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「いたーーっ!!」
昼食を食べ終え、芝生に寝転がって暫し休憩していた俺たちは、その大声に頭だけ起こした。こちらに向かってくる声の主、髙橋だった。
言い方悪いけど…………見つかってしまった。
転た寝しかけていた俺はまだ言うことの聞かない体を無理矢理に立たせては、座ったままの藏元を見下ろして告げる。
「じゃあ、また」
「ぇ、行くの?」
「おぅ」
「久しぶりだったのになぁ……」
「まぁ、学校でいつでも会えるし」
「…………」
髙橋が用があるのは当然藏元だろうし、あの嫌味なサッカー部員からも言われている。いや、あいつらから言われたから、ではなくて、友だちだとしても、平凡な自分の立場は弁えてるつもりだ。
鞄を持ち、その場から歩き出す。
数歩歩いたところで、そこに到着した髙橋に両肩を掴まれた。走ってきた勢いがあったからか、そのまま体を揺さぶられて視界が揺れる。
「ぅわ、ちょ、何っ……髙橋??」
「探したぞ成崎!」
「……は?俺??」
藏元を探して2Bまで行ったんじゃなかったの?
「ちょ、……おい離せって」
未だにぐらぐらと揺すられて、気持ち悪くなってくる。それに気づいた髙橋は突然止めたかと思うと、藏元のほうに向き直る。
「藏元ぉ、ちょっと成崎借りてもいい?」
「え……今から?」
「そう!」
「どのくらい?」
「うーん、30分くらい?」
「成崎じゃないと駄目?」
「そう!成崎じゃないと駄目!どうしても!だから貸して!」
……おいお前ら、俺は貸し借りできる便利グッズでは決してないんだけど?レンタル利用時間とか、人に対して使うなんて初めて聞いたよ。そしてなんで当の本人の予定は聞かないのこの人たち。おかしくない?
「……分かった」
「ありがと!じゃ成崎!行こう!」
「ちょっと!……え?何これ?新手の人身売買?」
「何?」
俺の腕を引っ張っていく髙橋の歩くペースは、俺にとっての駆け足だった。転ばないように必死に速度を合わせながら文句をぶつける。
「俺のレンタル料っていくらなの?つか、レンタル料は誰に支払ってんの?俺で商売して儲けてんのは誰なの?!」
「何言ってんだよ成崎ー」
笑いながらぐんぐんと突き進み、見えてきたのはグラウンドに続く石階段。そこを通るのかと思いきや、通り過ぎて、芝生の土手まで来て漸く止まった。俺の腕を漸く離した髙橋は、土手に腰を下ろした。
……グラウンドまで来たからてっきりスポーツするのかと……いや、だったら俺より藏元連れてくるだろ。何を好き好んで下手くそとやるんだよ。じゃあ……他に考えられることは?
「成崎……俺の相談を聞いてくれぇ」
相談窓口だったか。
「いらっしゃいませぇ」
俺はそんな冗談を呟いては髙橋の隣に腰を下ろした。
「珍しいね、髙橋が相談なんて……。基本ポジティブ思考だろ」
「うん……悩むよりやってみる!ってことのほうが多いけどさぁ……久しぶりにめっちゃ悩んだよ」
「へぇ……じゃあ結構深刻だな」
「うん…………俺さぁ、今まで付き合ったやつに……ちょっと酷かったなぁって思って」
「それは……どういう……?」
「俺は運命の人探しに真剣だったけど……そうじゃないからってすぐに別れちゃってただろ?」
おぉ……ついに自覚した?付き合った子、多すぎだし……流石に気づいた?
「向こうは好きでいてくれたのに、……あいつらに、もうちょっとやってやれることあったよなって思った」
「あー……うん」
どうしたんだ髙橋。なんだか急激に成長してないか?精神が運動バカから少し大人になってる?
「でも、それと同時に、人を好きになるって本当に特別なことなんだなって思った」
「……特別?」
「うん。これだけ付き合ってみても、なんつーか……離れたくない!って感じにならなかったんだよ」
歴代の付き合った人たち、今この場にいたら、髙橋のことどう思うだろうか。
俺は正直、思ったよ。この人でなし、て。
「俺にとっての運命の人は、多分、俺がそう思える人なんだよ」
「え、と……永遠の愛……的な?」
「そう!それ!ずっと一緒にいたいって思える人!」
……言っちゃ悪いが、高校生の恋愛にしては重すぎやしないか。……いや、若気の至りってやつで、燃え上がるような情熱的な恋って考え方もあるのか。
「でさ、初めて、心からちゃんと、そう思えたんだよ」
「……?」
「……藏元に。」
「…………え?」
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