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「藏元……?」 「うん」 髙橋の言葉に、心臓がぎゅっとなった気がした。 「初めて会ったとき、あの目がめっちゃ印象的で……何て言うか……とにかくキレイで、頭から離れなくて、忘れられなかったんだよ」 髙橋は、本気で……まじで、藏元を……? 「スポーツ出来るんだって知ってからも、気になって仕方なくてさ……」 藏元の話をする髙橋は、多分無意識に、テンションが上がってきてるのか徐々に声の音量が大きくなっている。 そういえば、あの時渡辺が言っていた。髙橋が藏元の話ばかりしている、と。あの時既に、スポーツではなく藏元を好きになっていた? 「藏元が笑うとなんか……こう…………ドキドキ?するんだよ。そのせいでカタコトになっちゃうし……」 知ってる。藏元の笑顔の威力が凄いことなんか、ずっと前から知ってる。誰に言われなくたって、俺が一番…… 「そのうち運動してて近づいただけで、めっちゃ緊張するようになっちゃってさぁ……、……でも落ち着かないし緊張もするけど、一緒にはいたいんだよな……」 芝生を弄る髙橋とは対照的に、空をゆっくりと流れていく雲を眺める。今思うことも対照的。それなのに、考えている人物は同一人物。 なんとも不思議なことだ。 「勉強も出来てさ……皆に、めっちゃ優しく教えてくれたんだよ。そういうとこ見ると、益々……」 そこで言葉を切った髙橋は、指で摘まんでいた芝生を千切って、意を決したように俺を見た。 「成崎は、藏元のこと好きなのか!?」 「…………は?」 真顔で聞き返した俺に、それでも髙橋は真剣な表情だった。 「藏元は、成崎を、大事にしてるからっ」 「……?」 「誰が見ても、本当に大事そうにしてるんだっ」 「……ぇ?」 「悔しいけど、俺たちと過ごしてるときより、成崎といるときのほうが楽しそうだし、感情も出してる気がする」 「……それは……俺が1番最初の、友だち……だから」 「それだけ……なのか?」 それだけ……それだけの関係の筈だ。 それだけって言葉に、なんでこうも違和感を感じる? 「……ノンケだよ」 「は?」 「ノンケ同士、意識することがないから普通の仲良しってこと」 「……」 そう、そうなんだよ。俺と藏元には他の人たちが気を付けているルールがない。誤解されそうな言動も、じゃれ合う行動も、感情を露にする態度も、俺たちの間では“友だちだから”で終わるんだ。恋愛の可能性という(しがらみ)がないから、素で笑い会える。 「……成崎って凄いな」 「何が」 「普通、あんな奴が隣にいたら惚れちゃうだろぉ……?」 髙橋にそう言われて、即座に否定できなかった。俺はノンケだよ!と突っ込めなかった。 何故なら、髙橋もそこまでのホモではないから。どちらかというとノンケに近い部分のほうが多い気がする。そんな髙橋が、そこまで惚れたんだ。 ノンケだから絶対に惚れませんと、完全否定出来なかった。 「じゃあ……その……」 「…………」 あの髙橋が口ごもっている。となれば、これから髙橋が口にしようとしている言葉は自ずと分かる。俺は、先程より大分雲が増した空を見つめたまま、静かに待った。 「俺……藏元に告白してみようと思う」 髙橋の言葉を予想していたくせに、自分でも驚くほどぎこちない相槌を打った。 あぁ俺今、動揺しているんだ。 「ああっどうしようっ!告白ってどうやるんだぁ!」 気恥ずかしさを紛らすためか、髪をがしがしと掻き乱す。 「何て言えばいいんだっ?」 「……それは髙橋の言葉じゃないと意味ないだろ……」 「だ、だよな……!」 頭を抱えて悩む髙橋を見て思う。こんなに惚れていたのか。付き合うも別れるも多い奴だったけど、ここまで好きになれたのなら、本当に運命の人、というやつなのかも。……それなのに、それを俺はどう思ってる?髙橋にはちゃんと幸せになってほしい。その気持ちは確かに、はっきりとここにある。 じゃあその更に奥。感情の奥深くにある得体の知れないモヤモヤとした感情は何だ? 「よしっ!じゃあ俺、今から行ってくる!」 「今!?」 「おう!告白するって気持ちがあるうちに!」 「えっ、行動力は凄いけど……!?」 「ありがと成崎!じゃ!」 どこがスイッチだったのか、ポジティブ思考に戻っていた髙橋は、既に噴水広場の方向へ走り出していた。 それを、俺なんかが止められるわけもなく、髙橋の背をただ見送るしかなかった。

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