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友だちに彼氏ができる。……かもしれない。 午後、昼過ぎから降りだした雨は、陽が落ちて暗くなった今でも降り続いている。 窓ガラスを滑り落ちる水滴を、ただ見つめる。 「優」 背後から呼ばれて、ゆっくりと振り向く。 「どうした?明らかにいつもと違うぞ」 「そ、すね……」 俺は今、宮代さんの部屋にいる。テスト勉強しに来たのに殆んど上の空で集中できなかった。 だから少し休憩を挟もうということになったんだけど……休憩中もずっと上の空だった。 カップふたつを持って、窓際に座る俺のもとへ来た宮代さんは隣に腰を下ろした。 宮代さんからカフェオレの入ったカップを差し出され、それを受け取るため、気晴らしに読もうと手に持っていた小説を置いた。 「小説に集中出来ないなんて、相当だな」 「……ですね」 カフェオレを一口飲むと、優しい甘さが口のなかいっぱいに広がった。 「……慣れた筈だったんですけど」 ポツリと呟いてみる。宮代さんは隣で静かに頷いた。 「ひとりも、平気だった筈なのに……」 俺には分からない感覚だけど、同性を好きになっても、幸せならそれでいいと思える筈だったのに。 「……俺って最低だぁ……」 人の幸せを素直に喜べないなんて。人の幸せより自分の孤独感のほうが勝っているなんて。 「優」 「……はい」 「それは普通だよ」 「ぇ……」 「ひとりに慣れるなんて、誰もできないんじゃないか。」 「……」 そんなものだろうか。1番仲のいい友だちに恋人ができて、今までより一緒にいられなくなったら、誰でも寂しくなるんだろうか。 窓際の寒さに身震いして、温かいカップを両手で包み込む。 「寒い?」 「少し。……これから梅雨の季節っすね」 窓から見える雨空を何気なしに見つめる。 「でも雨、嫌いじゃないだろ?」 「はい。綺麗ですから」 体育座りして膝の上にカップを構える。雨は止む気配がない。そんな事を考えていた俺の背中に、優しい温もりが重なってきた。 宮代さんは長い脚で俺の両側を囲うようにして座り、後ろから抱き締めてきた。 「!!?」 「……冷た」 「……え?」 「何が“少し”だよ。冷えきってるじゃん」 「…………あ、え?そうすか?」 「背中丸まってるし」 「あはは……じゃあ今日は肉じゃがすかね」 「いいね。温まりそう」 ぎゅうっと抱擁されることに、恥ずかしさはあるけど、今日は色々考えすぎて、正直疲れた。 宮代さんの優しさに、今だけ甘えてしまおう。 俺は何の抵抗もせず、そのまま宮代さんの腕の中に収まった。

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