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カフェオレを一口飲んだら、宮代さんが俺の肩に顎を乗せて顔を覗き込んできた。 「旨い?」 「っ、……はい」 旨いよ。旨いけどさ、近くなったらギュッてなったし、そのせいで……。 「なんか勉強する気起きないよなぁ」 「ふふっ」 「?どうした?」 「く、くすぐってぇっす」 「何が?」 「息、こそばゆい」 「……何、耳弱いの?」 「ちょ、やめっ……あはは」 くすぐったくて宮代さんから離れようとするけど、腕の中にいる時点でそこまでの距離もとれなくて、状況は大して変わらない。 「……面白くなってきた」 「ドSかっ!」 「面白い反応する優が悪い」 「ちょー!やめろぉ!」 「ぁおい、暴れるとっ……!」 悪ふざけする宮代さんから力尽くで逃げようとした俺は、バランスを崩して横に倒れる。咄嗟に、俺の頭を守ろうとした宮代さんが片腕を俺の下に滑り込ませた。 「…………」 「……大丈夫?打ってない?」 「……はい」 無様に寝転がった俺を、真上から見下ろしてくる宮代さん。 俺の頭を守るために宮代さんは一緒に倒れ込んだんだって、分かってるよ。これは自然の体勢なんだって。でもさ、相手はあの宮代さんで、こんな姿勢で見下ろされてみ?誰だって、ときめいちゃうだろ?何かしらの、それなりの感情抱いちゃうだろ?顔かっこいいってなるだろ?!頼むから俺の心臓、もう少し静かにしてくれ。 「何?」 「え?」 「固まってる」 「ぁ……いや……」 「どこか痛めた?」 「あぁいえその……ちょっとだけ、ドキッとしたっていうか……ははっ」 「あー……そういうこと」 心配してくれた宮代さんの目が、細められた。 や、やばい!幻滅された!?ファンと同じだって思われた!? 「違っ、宮代さん、俺は、そうじゃなくてっ」 「何が?」 「だ、だから、あの……そういう気持ちとかではなくてっ……!」 「じゃあどんな“ドキッとした”なの?」 「ぁ、……えっ、と……それは」 この体勢で、この目線で、そんなこと言われても……!! 「優」 「はいっ」 「俺は絶対大丈夫って思ってる?」 「……は?」 表情は変わらないまま、もう片方の手で俺の目にかかっていた前髪を避けた。 「俺は他と違う?……俺は優のこと大切に思ってるけど、安全ではないかもよ?」 「宮、代さん……?」 呆気にとられる俺の視界は、宮代さんしか映っていない。ゆっくり近づいてくるその美顔に見とれて、何もせずただ寝転がっていた。 鼻先が触れたところで、その場に似合わないインターフォンの音色が鳴り響く。 「……はぁ」 動きを止めた宮代さんは瞼を閉じて、ため息を小さく吐いた。 睫毛、長いなぁ……。 「優、頭上げてくれるか?」 「……あっ、すみません」 「ちょっと行ってくるから……しー、な?」 宮代さんは人差し指を顔の前で構えた。 ……しー、て。かっこいいし、可愛いし、なんだよそれ。 コクンと頷いた俺を見て、小さく笑った宮代さんは玄関の方へ歩いていった。 ……宮代さんと秘密共有とか……改めて考えると、バレたら凄い騒動になるじゃん。気を付けよ……。 起き上がり飲み終えたカップを持ち、キッチンの方へ音を立てないように歩き出す。窓際より幾分か玄関に近いところにあるキッチン。 そこまで行くとどうしても聞こえてきてしまう来客者と宮代さんの話し声。 「堂々と、ここに来たんだ?」 「はい」 返事をしたその声に、俺は思わず出そうになった声を押し殺して、その場にしゃがんだ。

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