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なんでっ、ここに……!! 「駄目もとで部屋に行ってみたんですけど、やっぱり居なくて……。あと思いつく所で、誰かを頼るなら……ここしか思いつかなくて」 それほど、藏元から見た俺は、宮代さんを頼りにしてたってこと?藏元の前で、そんなに宮代さんの話してたっけ? 「俺が、仲良さそうに見えてるってことでいいのかな?」 「それもありましたけど……1番は寝言です」 「寝言?」 ん? 「前に、寝言で会長の名前を呼んでいたので」 なっ、なんだよそれ!?寝言……てことはあの時だよな!?ノーリアクションの藏元にすっかり騙されてた!!完全やらかしてたじゃん俺!! 「夢で見るくらい、あなたのこと信用してるんだと思って……頼って、ここに来ているんじゃないかって……」 「……それは嬉しいけど」 キッチン付近にしゃがんでいる俺はふたりの姿は当然見えないので、会話から想像するしかない。声色から思うに、藏元は超真剣な顔してるんだろうな……会長相手に臆することなく。 「ここの階がどういうところか、誰かに聞いてないか?」 「成崎に、転校初日に言われました。この階には近づくなって」 ……ごめん。言った張本人がここにいるよ。 「なら、その理由も知ってるだろ」 「はい。でも、どうしても……緊急だったので」 緊急……また走り回って探してくれてたのかな。 「……藏元、だよな?」 「はい」 「……例えば、もしここに、優がいたとして」 「優?」 「……どうかした?」 「…………」 み、宮代さぁあああぁあんっ!!ふたりの時って言ったじゃん!!藏元の前で何うっかりやっちゃってるんですか!!ミスるタイミング最悪なんですけどっ!! 「……いえ」 「……ここにいたら、堂々とここに来た藏元が、“近づいちゃいけない階”に優がいたって証明することになるんじゃないのか?」 「俺は別にそんなつもりはっ」 「お前にその気がなくても、それを見た周りはどう思うだろうな?」 「…………」 「優がもし、誰かを頼るくらい弱ってるなら今はそっとしておいてほしい」 藏元は何も言わない。俺がここで玄関まで走っていって藏元のフォローに入ればいいんだろうけど、それじゃあ自分でここにいたって証明することになってしまうし、何よりも今、藏元にどんな顔して会えばいいのか分からない。 今、藏元が俺と会って話すことは、ひとつしかない。 「あの、」 俺が膝を抱えて丸まった時、藏元が漸く喋った。 「ここにいないってことは分かりました」 嘘つけ。そんな事、全く思ってないくせに。 「だからもし、成崎に会ったら伝えてほしいです」 「何?」 「前に言ってた映画、……一緒に観たいもの見つけたから、今週末、予定空けておいてほしいって……」 ……あぁ、確かにそんな約束してたよな。あの時は楽しみに思えてたのに、時の流れって恐ろしいな。  「分かった。会えたら、伝えておく」 「お願いします。…………では」 静かに呟いた藏元の声のあと、少し間が空いて扉の閉まる音がした。 膝に顔を埋めて深くため息を吐く。玄関から戻ってきた宮代さんは丸まる俺の前で止まって、その場に膝をつくと俺の頭を撫でてきた。 「聞いてたのか」 「……はい」 「……そうか」 「ふたりして、下手くそな演技でした」 「おい」 少し乱暴に髪を乱される。 「あはは」 「…………優、今日ここに泊まれよ」 「!?……は!?」 「俺の我が儘で悪いんだけどさ……」 「ぇ……え!?無理っすよ!さすがにこの階に泊まりまでは出来ないっす!」 「……でも、今の優を独りにしたら、ずっと悩み続けるだろ」 「……っ……」 「だから、気を紛らわすって意味でも……な?」 「…………」 どこまでも優しくて、かっこよくて、ずるい。 頭を撫でる宮代さんの、服の袖を皺が出来るくらい思い切り握った。

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