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俺はノンケじゃないのか?
藏元が部屋を出ていった後、半日近く放心状態だった俺は色々と状況を整理していって漸くキスされた事に思考が追い付いた。
優しくて、甘ったるいキスをされたと自覚して恥ずかしさでソファーのクッションに顔面を押し付けては声にならない悲鳴を上げた。
めっちゃ恥ずかしいっ!!いやいや!!恥ずかしいって何!?男だよ!?相手は藏元だよ!?そこは幻滅するところだろ!?それなのに俺はっ…………!ぉお俺の心身が異常だっ!!
乱雑無章でキャパオーバー。
そして記憶が、追い討ちをかける一言を、音としてではなく、言葉として甦る。
“成崎が好き”
たった今、耳元で言われたように、リアルに思い出して意識を捕らえて離さない。両耳を手で押さえてぎゅっと目を瞑る。
どうしよう。どうしたらいい。男から告白されるなんて……自分にまさかそんなことが起こるなんて思ってもみなかったから、いざ当事者になるとどうしたらいいのか冷静に考えられない。しかも相手は藏元だ。他の生徒から見たらアイドル様だ。そんな御方から告白されましたなんて、軽率に言える筈もない。だから安易に相談もできない。そして、同じクラスだ。どんな顔して会えばいい?また平常を装う?……無理!絶対無理!俺はそこまで演技派じゃない!絶対墓穴掘る!
……と、取り敢えず……1日休もう。休んで、整理して、今後どうすべきか考えよう。
「……はぁ……」
クッションから顔を上げてソファーに座り直す。部屋のなかは真っ暗だった。体内時計ではそろそろ夕食の時間だ。
「ぁ……宮代さん」
夕食を作りに行かなきゃ、と思い出したところで動きを止める。
……違うじゃん。もうテスト終わったし、行かなくていいんだ。5階へ行く度感じたあの緊張も、無いんだ。
「…………」
静まり返る部屋を見渡す。近頃ずっと宮代さんのところに行っていたから、少し忘れていた。
この静けさが、孤独感が、懐かしい。
そのまま数分固まっていると、鳴り出した携帯電話。暗闇のなか眩しいくらいに光るそれを、出る気にならずただ見つめる。
暫く鳴り続け、切れた。
「ごめんね誰かさん。タイミング悪いよ」
届く筈もない謝罪を口にしたら、携帯電話はすぐにまた鳴り出した。……イラッとした。けど、緊急の電話かもしれないと思い直し、仕方無く手に取った。
「……はい」
「あっ!出たっ!てことはさっきの無視したなぁ!!」
……全然緊急じゃなかった。
そっと耳から離して切ろうとすれば、でかい声で制止がかかった。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!切ろうとしてない!?大事な話だから!切んなよ!」
「……何」
相変わらずテンション高い奴……。
高音の女の声に、眉を寄せる。
「もうすぐ夏休みでしょ?長期休暇くらい帰ってくるよね?おばさんも心配してるしっ」
あぁそうか。テストも終わったし、もうすぐ夏休みだ。
「あー……多分」
「すーちゃん!!真面目に答えろよぉ!」
ハイテンションで喋り続けるこの女は、俺の幼馴染み。“すーちゃん”は、こいつが使ってる俺のあだ名。同い年で、お互い高校生なんだ。そのふざけたあだ名は、いい加減どうにかしてほしい。
「前に帰ってきたのはお正月だったしたったの5日間!ちゃんと家族を恋しがれ!」
「はいはい」
「元気ないなっ!大丈夫っ?」
「……もう切っていいですか」
「もーっ!息抜きするためにも、ちゃんと帰ってこいよ!愛されてるんだからね!日程も教えてね!!」
一方的に喋り倒して、一方的に切られた。
……お前が元気ありすぎるんだよ、アミ。
幼馴染みの変わらない元気な声に、少しだけ元気を取り戻した。
3週間もしないうちに夏休みだ。なるべく普通に過ごして夏休みに入ろう。携帯電話をテーブルに置いて、大きく息を吐いた。
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