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「えっ、別れたんすかっ」
放課後、ズッキーの一言に控えめに驚きの声を上げた。今、教室には俺とズッキーだけ。
ズッキーから教室に残るよう言われて素直に待っていた俺は、ズッキーが運んできた大量の投票用紙を見て全てを察した。
あー……今回は投票用紙の仕分けの雑用か……。
生徒の席に座ったズッキーとふたりで、仕分け作業に取り掛かっていた。夏休み期間中、1日だけ校内で開催される夏祭り。夏休み中だから参加も出店も自由なんだけど、大多数の生徒は参加する。
そんなわけで、クラスで運営する出店の話し合いが昨日行われたらしい。……すぐには決まらなかったんだろうな。こうして、開票を後日に回してるくらいだ。昨日休んでよかった。
紙を1枚1枚開きながら、ズッキーとの会話に戻る。
「おー。別れちゃった別れちゃった」
「あの……あれっすよね。例の……生徒さん」
「そう。その生徒さんと。」
んー……本来、健全に戻ったことを喜ぶところなんだろうけど……
「えっ、と……大丈夫すか。気持ち的に」
惚気顔は気持ち悪かったけど、ズッキーは相手のことちゃんと好きそうだったし……
「おー。これでも大人だからな。人生経験はそれなりに積んでるし、失恋のひとつやふたつで落ち込んでらんねぇの」
平然と紙を仕分けるズッキーを見て、ほんの少し見直した。……大人って、すげぇ。
「……なんだよ?」
「……ちょっとズッキーかっこよく見えた」
「お?そうか?大人の魅力?」
「魅力までは到達してない。むしろマイナスからゼロに近づいた感じ」
「……俺は成崎のなかで今までマイナスだったわけか」
「今さら気づきました?」
「……俺ら付き合う?」
「どっからそんなぶっ飛んだ話になるんすか」
「俺の男の魅力を存分に見せてやろうかと」
「あー今またマイナス方面に急降下」
「早いな」
はっはっはっと豪快に笑ったズッキーは、本当に失恋のことは気にしてないみたいだ。
「……ぁ、失恋で見た目スッキリしたの?」
「まぁな。切り替えは目に見えるところからしたほうが効果あんだぞ」
……こじつけてる気もするけど。
「……そういや成崎。夏祭りの日は学校にいるのか?帰省するなら別の奴に役割引き継がねえと」
「んー……その日には戻ってくるようにする」
この雑用係を、誰がやりたがるだろうか。
全ての紙を仕分け終えて、投票があった出店ごとに枚数を数えていく。
「なんだ、せっかく帰るのに、このために戻ってくるのか?味気ねぇなぁ。学生だろ?仕事に生きんな。恋愛に生きろ」
「うるさいっす。ほっとけ」
「週末も帰らないだろ?てことは、外に好きな子はいないんだろ?」
隣で完全に手を止めてペチャクチャ喋るズッキーを一瞬睨む。ぁ、数え間違えた。やり直しだよ。ズッキーうるせぇ。
「俺は正直、お前とあの王子様、ピッタリだと思ってたんだけどな。髙橋が入ってくるとはねぇ……ん?おい?」
「…………」
……ピッタリって、なんだよ。
吐き出しそうになった言葉をぐっと堪えて、作業を再開する。
「俺は今はそういうの必要ないんで。……ズッキーは、次は彼氏なの?彼女なの?」
「そうだなあ。夏休みに入ったら久しぶりにキャバクラでも行こうかな」
「……」
「おい成崎、その冷たすぎる視線やめろ」
仮にも先生相手に舌打ちして、数え終えた投票用紙を整えた。最多の票を集めた出店はクレープ店だった。あとはこれが、他クラスと被っていないか、そして生地を焼ける人は果たして何人いるのか。課題はそのくらいか。
「帰省して、いい子いたら紹介してな」
「誰がするかっ」
「だよな。まずお前だよな」
「そういう事じゃねぇっすよ」
呆れ果ててため息を吐いたら、次にズッキーはとんでもない一言を言ってきた。
「まぁ俺は裕太に未練はねぇから。これからはいち生徒として接していくから安心してくれ」
「……裕太?」
目玉取れるんじゃないかってくらい、目を見開いた。
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