114 / 321

114

「えっ、別れたんすかっ」 放課後、ズッキーの一言に控えめに驚きの声を上げた。今、教室には俺とズッキーだけ。 ズッキーから教室に残るよう言われて素直に待っていた俺は、ズッキーが運んできた大量の投票用紙を見て全てを察した。 あー……今回は投票用紙の仕分けの雑用か……。 生徒の席に座ったズッキーとふたりで、仕分け作業に取り掛かっていた。夏休み期間中、1日だけ校内で開催される夏祭り。夏休み中だから参加も出店も自由なんだけど、大多数の生徒は参加する。 そんなわけで、クラスで運営する出店の話し合いが昨日行われたらしい。……すぐには決まらなかったんだろうな。こうして、開票を後日に回してるくらいだ。昨日休んでよかった。 紙を1枚1枚開きながら、ズッキーとの会話に戻る。 「おー。別れちゃった別れちゃった」 「あの……あれっすよね。例の……生徒さん」 「そう。その生徒さんと。」 んー……本来、健全に戻ったことを喜ぶところなんだろうけど…… 「えっ、と……大丈夫すか。気持ち的に」 惚気顔は気持ち悪かったけど、ズッキーは相手のことちゃんと好きそうだったし…… 「おー。これでも大人だからな。人生経験はそれなりに積んでるし、失恋のひとつやふたつで落ち込んでらんねぇの」 平然と紙を仕分けるズッキーを見て、ほんの少し見直した。……大人って、すげぇ。 「……なんだよ?」 「……ちょっとズッキーかっこよく見えた」 「お?そうか?大人の魅力?」 「魅力までは到達してない。むしろマイナスからゼロに近づいた感じ」 「……俺は成崎のなかで今までマイナスだったわけか」 「今さら気づきました?」 「……俺ら付き合う?」 「どっからそんなぶっ飛んだ話になるんすか」 「俺の男の魅力を存分に見せてやろうかと」 「あー今またマイナス方面に急降下」 「早いな」 はっはっはっと豪快に笑ったズッキーは、本当に失恋のことは気にしてないみたいだ。 「……ぁ、失恋で見た目スッキリしたの?」 「まぁな。切り替えは目に見えるところからしたほうが効果あんだぞ」 ……こじつけてる気もするけど。 「……そういや成崎。夏祭りの日は学校にいるのか?帰省するなら別の奴に役割引き継がねえと」 「んー……その日には戻ってくるようにする」 この雑用係を、誰がやりたがるだろうか。 全ての紙を仕分け終えて、投票があった出店ごとに枚数を数えていく。 「なんだ、せっかく帰るのに、このために戻ってくるのか?味気ねぇなぁ。学生だろ?仕事に生きんな。恋愛に生きろ」 「うるさいっす。ほっとけ」 「週末も帰らないだろ?てことは、外に好きな子はいないんだろ?」 隣で完全に手を止めてペチャクチャ喋るズッキーを一瞬睨む。ぁ、数え間違えた。やり直しだよ。ズッキーうるせぇ。 「俺は正直、お前とあの王子様、ピッタリだと思ってたんだけどな。髙橋が入ってくるとはねぇ……ん?おい?」 「…………」 ……ピッタリって、なんだよ。 吐き出しそうになった言葉をぐっと堪えて、作業を再開する。 「俺は今はそういうの必要ないんで。……ズッキーは、次は彼氏なの?彼女なの?」 「そうだなあ。夏休みに入ったら久しぶりにキャバクラでも行こうかな」 「……」 「おい成崎、その冷たすぎる視線やめろ」 仮にも先生相手に舌打ちして、数え終えた投票用紙を整えた。最多の票を集めた出店はクレープ店だった。あとはこれが、他クラスと被っていないか、そして生地を焼ける人は果たして何人いるのか。課題はそのくらいか。 「帰省して、いい子いたら紹介してな」 「誰がするかっ」 「だよな。まずお前だよな」 「そういう事じゃねぇっすよ」 呆れ果ててため息を吐いたら、次にズッキーはとんでもない一言を言ってきた。 「まぁ俺は裕太に未練はねぇから。これからはいち生徒として接していくから安心してくれ」 「……裕太?」 目玉取れるんじゃないかってくらい、目を見開いた。

ともだちにシェアしよう!