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「髙橋くんだっ……」 「髙橋くん……!」 「ぇ、え、藏元くんにっ……?」 「風紀委員会の件は……、大丈夫だったのかな ……?」 クラスメイトたちは髙橋を見るなり、藏元と髙橋の迷惑にならない程度にざわつきだす。 髙橋が藏元に告白したことは既に皆が知る事実ではあるけど、……さて。大きく問題なのは、俺が髙橋に対してどう接するべきなのか。 周囲の生徒たちは当然、藏元と俺の間で起こってることなんて知りもしないから、俺が髙橋にぎこちなく接したら疑問を持たれるだろう。 でも髙橋が既に藏元から俺について何らかの話を聞いていたら、今まで通りの接し方じゃ怒らせる、もしくは、傷付ける可能性がある。 どちらにしても、俺から下手に声をかけるべきじゃない。まずは、髙橋の言動と行動から予測して、話を合わせていこう。 「……こ、」 「?」 「コンニ、チワ……!」 へ、下手っ…………!!平常心とはっ……!? 髙橋の驚くほどの挙動不審な態度に、この場にいる全員が固まった。 真っ直ぐな髙橋。純粋で素直な髙橋。だからこそ、緊張や気まずい感情を全然隠せない髙橋。 ……えー、と……。この覚えたてみたいな日本語は……どう捉えればいいんだ?下手くそな演技が、余計に混乱させる。 「かっ、るの……か?」 ……?……狩るの?……蚊? ぇ……何?どうしよう。可哀想なくらいオロオロしてる……。察してあげたいけど、さっぱり分からない……。 「うん」 「!?」 俺が悩んでいたなか、さらりと返事をした藏元を、衝撃のあまり二度見してしまった。 髙橋の言ったこと分かったの!?なんで!? 「っの、……な、夏……夏祭りっ……なんだけどっ……!」 「うん」 ……夏祭り、ということは。俺はこの会話に参加しない方がいいんじゃないか? 半歩下がって、身を引こうとしたら髙橋はまたしても俺の予想を裏切ってきた。 「ぉ、俺もっ……!ふたりと一緒にっ、行っても、い、かなっ……!?」 「…………は?」 「え?」 思わず、俺と藏元は目を見合わせてクエスチョンマークを浮かべた。 ふたりと一緒に?藏元を誘うのは分かるけど、何故に俺も?髙橋はまだ、藏元と俺の間であったこと、知らない?それとも何かの目的有りき? つーかそもそも、なんでふたりで行くって思ってんだ? 「だ、だだめ……か、……な?」 「……あーいや、……髙橋……駄目っていうか……」 「成崎と、一緒に行く約束はしてないんだよ」 「ぇ嘘っ」 藏元の一言に、驚いた顔をする髙橋。回りの生徒たちもざわついた。 ぇそんなに驚くことなの? 「ど、ちか、夏祭りは……いないの?」 「ううん。ただ、成崎は忙しいから」 「ぁ……そうか。係の仕事……とか、ある、のか……」 「…………」 係の仕事は勿論あって、俺が望んでずっと前からやってることで、どうせイベントを楽しむ余裕なんてない。むしろ余裕を無くすことを目的としてた、……筈なのに。 「じゃ…………あの……藏元…………ぉ、れ……と」 教室全体が甘い空気になる。髙橋が藏元を夏祭りに誘おうとしてる。何故か気まずい気持ちになって、横にいる藏元と目の前の髙橋のやり取りから、視線を下に反らす。 やっぱり、ここから離れるべきだったな…… 「ごめん。俺も係の仕事あるんだ」 下を向いたまま、拒んだ藏元に息を飲んだ。 「……だ、だよなっ……ごめんっ」 教室内は甘い空気から一転、気まずい空気に陥る。 「……でも、余裕出来たら、3人で一緒に回ろっか」 「!おぅ!!」 ほっとする教室内。 純粋な髙橋は、藏元の微笑みに素直に喜んだけど……。俺は複雑な心境でしかないよ……。

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