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それから数日後、イベント準備やなんやかんやでバタバタしたまま終業式を迎えて、めでたく……かは謎だけど、明日から夏休みに突入。
夏休みだとはしゃぐ生徒たち、夏祭りを心待ちにする生徒たち。みんなの気持ちはソワソワしてて浮き立っている。
そんななか、俺だけ気が沈んでいた。
周囲が帰り支度をして教室から出ていくなか、俺だけ席に座ったまま動かないでいたので、ひとりの生徒が声をかけてきた。
「どうしたの?」
顔を覗き込んできたのは、渡辺だった。
「……んー」
「元気ないね。明日から夏休みなのに」
「……帰らないといけないからさぁ」
「?……帰る?……あぁ!帰省するの?」
「んー」
「へぇ、成崎くんが帰省なんて珍しいね」
「まぁ……帰る気は全然無かったんだけどねぇ……幼馴染みがうるさくて」
あのあとも何度か電話があって、帰省の予定を催促された。
「幼馴染み?……女の子?」
「んー」
「成崎くん、懐かれてるんだね」
「いやぁ……懐かれてるっていうか、幼馴染みだから近いっていうか……」
「そうかなー?女の子から帰ってきてなんて言われるなんて、成崎くんはその子にとって特別なんじゃない?」
ふふっと笑った渡辺に、俺は納得できなくて眉を寄せる。
帰ろうと通り過ぎていく生徒数人が俺と渡辺の会話を聞き立ち止まった。
何にやにやしてんだお前ら。さっさと帰れよ。
「何々?成崎くん帰省するの?」
「女の子?待ってるの?」
「ぇ、彼女のところに帰るの?」
「えー!彼女出来たの!?言ってよー!」
立ち聞きしただけの奴等が勝手に話を作って、勝手に話を進めていく。
「いやあのね、……違うから」
「何その間ぁ!怪しいー!」
「どんな子?写真あるの?」
「見たい見たい!」
「うーん……落ち着こうか。違うから。あいつの写真なんて持ってないから」
「あいつ呼び!」
「彼氏っぽーいっ!!」
「照れ隠し?見せてよー!」
「…………」
駄目だこの人たち。頭ピンク色過ぎて、全然話聞かないんだけど。
諦めてため息を吐いたとき、盛り上がる生徒たちの間から偶々見えてしまった藏元の姿。
ぁ、この話題やめないと。
「今日支度して明日発つから、なんかあればそれまでに。帰省中は至急以外の連絡はしないでね」
「それって恋人との時間邪魔しないでねって言うことー?」
まだ言うか。
「違うって言ってんだろ。ただの幼馴染みだから」
「成崎くん声おっきい。必死に否定されると益々疑いたくなるんだけど」
笑いながらそう言われて、思い返してみる。
……冗談にここまで必死になるのも変だよね、確かに。第一、この人たちは俺の恋愛事情なんて大して興味無いだろうから一時のお喋りのネタ程度だろうし。
……いやいや、俺さっき意味分かんなかったよね。藏元が見えたから何?藏元と、俺の恋愛も関係無いでしょうが。聞こえるように否定してるなんてアホかよ。そもそも藏元は、こっちなんか見てないし。この会話も気にしてる素振りないし。
「夏祭り前には戻ってくるの?」
渡辺がそれとなく話題を反らしてくれた。
「んー。前日の夜には戻るつもり。」
「彼女より係の仕事かよー」
からかう言葉にいい加減面倒くさくなって、俺の得意とする切り返しをする。
「みんなは?夏祭り、いい相手と行けそう?」
「!それがねっ!僕、先輩と行けそうなんだよ!」
「俺も!上手くいったよ!」
皆が興味のある話題について振れば、お喋りな彼らは、自分の話を話したくて仕方ないのだ。そして俺は聞く側。これがやっぱり安定で楽だ。
「へぇよかったじゃん」
「僕は断られたよ。係の仕事があるからって……」
「残念だな。でもほら、店に行けばいいじゃん」
「迷惑じゃないかな?」
「たった数分だろ。むしろ行かないほうが駄目だと思うぞ」
「……そ、そうだねっ」
それぞれの恋愛話で盛り上がるなか、俺は愛想笑いしながら帰省するための荷物を、頭のなかで整理した。
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