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眠気はすごいあるけど、宮代さんのメッセージは見ないといけない気がする。半開きの瞼を必死に上げながら、宮代さんのメッセージ画面を開く。
『2年から優は帰ったって聞いて、安心したよ。イベントのこととか一切忘れて、ちゃんと休めよ。』
「……やっさしー……」
こんなところまで行き届く宮代さんの優しさが、心に染み入る。
……こんな完璧な人が、俺なんかに好意持つか……?やっぱり、前に色々考えたことは俺の自惚れ……勘違いなのでは……?
あー駄目だ。頭使うと益々睡魔が……。
重すぎる瞼に抵抗できず、そのまま目を閉じた。
意識が沈んで十数分、携帯電話を片手に、完全に寝落ちした俺。
久しぶりの家はそれなりに落ち着く空間で、気持ちよく眠れていた……のに。
「おっかえりーー!!」
バコーーンッ
ドアを遠慮無しに勢いよく開けて、来訪者は俺の睡眠を妨害してきた。
「起きろー!ご飯だよー!」
容赦なくバシバシと叩いてくる女に、俺は寝起きの掠れた声で唸る。
「……う、さい……」
「うるさいじゃないよ!ご飯だよ!起きろぉ!」
「……アミさぁ……」
「何?」
「未だに、男子の部屋に平気で入ってくんのな……」
「……え?すーちゃんは男じゃないじゃん」
何が可笑しいのか、アミはあははーと笑い飛ばす。茶髪をポニーテールに結って、実年齢より若干幼い顔は無邪気な笑顔健在で、性格もうるさ……天真爛漫なままだ。
「失礼だな……」
「うちらが男女意識とか、持つだけ無駄でしょー。ただの幼馴染みだし」
「……アミが正論とか、なんかムカつくな。馬鹿のくせに」
「はぁ?馬鹿にすんなし」
起き上がり、ベッドに座ると片腕を掴まれぐいぐいと引っ張られる。
「何座ってんのご飯だって言ってんのー!」
「あーもう分かったから!行くから!」
「うちも食べてくからー」
「あーそう」
「すーちゃんはいいねーおばさん料理上手で羨ましいよ」
「……アミのお母さんは元気?」
「……うん、相変わらずバタバタしてるよ」
少し間は空いたけど変わらない笑顔で笑ったアミに、ちょっと安心する。
「……てか、そんなことどうでもいいから食べようよ!」
「はいはい」
手招きして部屋を出ていくアミに続いて俺も部屋を出る。
アミの後ろを歩きながら揺れるポニーテールを何気なく見ていると、携帯電話が鳴った。
俺は部屋から持ってきてない。鳴ったのはアミの携帯電話だ。パーカーのポケットから取り出して、耳元に当てたアミは歩きながら電話に出る。
「もしもしー?……ぁ、どうしたのー?」
「…………」
友達にもこの対応か。裏表無いって凄いな……。
「!……まじ?うーん……」
何か問題があったらしくアミは歩みを止めた。
でも俺には関係無い話だろうし、アミを追い越して先にダイニングに向かおうとした。
「……ぁ、うちがどうにかするよ」
電話相手にそう言ったアミは、隣を通り過ぎようとした俺の腕を再び掴んだ。
「??」
「え?……んー、大丈夫!うちに任せて。……あはは、それは無いからー」
「…………?」
「はいはーい。うん、じゃあまたねー」
にこやかに電話を切ったアミは、それはそれは人懐っこい笑顔で俺に言ってきた。
「ねねっ!明日暇でしょ?付き合ってよ!」
「やだ」
「おいこら!せめて内容聞けよっ!」
「嫌な予感しかしない無理」
粘るアミを振り切ってダイニングに入る。父さんと母さんはもう席に着いていて、俺たちの言い争いに首を傾げている。
「優、どうしたの?」
「なんだ?帰って早々アミちゃんと喧嘩か?」
「喧嘩ってほどじゃないから。なんでもないから。」
「ねー聞いてよぉ!うちがすーちゃんを明日の遊びに誘ったのにさー」
「言うなっ。どうせ行かねーよ!」
「あら。断ったの?優」
「……断ったよ」
うわわ。両親がどちらも残念そうな顔をしている……。卑怯だぞアミ……!
「なんだ優。もう明日の予定入ってたのか?」
「……明日は……疲れたし、ゆっくりしてたい」
「予定無いなら行ってこいよ勿体無いぞー?」
「そうよね……久しぶりだもの。アミちゃんとお出掛けしてきたら?」
「…………」
「ほらー。ねー?お願いっ!うちに付き合ってよー?うちを助けると思ってさぁ?」
「…………」
馬鹿のくせして……こういうところはあざとい奴……。
「はいっ!じゃあ明日11時に迎えに来るからね!」
「何も言ってねぇじゃん!」
「無言は肯定だよー」
宮代さん、どっちにいてもゆっくりはさせてもらえそうにないです……。
俺は楽しげに笑う3人を横目に、大きくため息を吐いた。
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