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「元々何やっても大体出来る人だったから恵まれてる人だったんだけどさー……それを活かそうとしないっていうか。最初は大人びててかっこいいなって思って、イケメンだし、付き合ったんだけどぉ」 「付き合ってから嫌な奴って知ったんだー?」 「そうなんだよね」 「うわぁ亜美ちゃん可哀想ー」 苦笑いする亜美さんと、イケメンを蹴落とすことに楽しみを見出だす男子。歩生は何を思っているのか、黙っている。 ……多分、俺が思ってること……間違ってないよね……?こんな偶然あるのかって疑うけど、ここまで話が重なる筈ないよね? 「感情表現苦手だったとか?」 歩生がフォローを入れようとすると、男子がすかさず遮る。 「歩生ちゃんは素直すぎるってぇ。ヤバイ男に引っ掛かりそうで心配だわー」 「うーん?素直、かなぁ?」 歩生が俺のほうを見た。 「一緒にいるときもよく笑ってたし、苦手ではなかったと思うよ」 「そのイケメンのさ、写真とかねーの?」 「全部消したんじゃないかなー」 そう言いつつも携帯電話を触る亜美さんに、どうか見つけないでくれと念を送る。 「……ぁ、部員と撮ったの残ってた」 見つけてしまったその写真を、男子と、歩生と、俺に見せてきた。 「うわめっちゃイケメンじゃん勿体無ぇ残念だわー」 「凄いかっこいいねっ」 「ほんと、残念……あはは」 何故か誇らしげに言った亜美さん。 その写真に写っていたのは、俺の予想は外れてほしかったけど、やっぱり藏元だった。 楽しそうに笑う部員たちに囲まれて、微笑む藏元。 ……何だよその笑顔。めっちゃつまんなそうじゃん。よく笑ってた?これ完全作り笑顔じゃん。俺の知ってる藏元は……もっと楽しそうに笑うのに…… 「正体知ってどうしたの?亜美ちゃんは」 この話題が余程好きらしい男子は次から次へと聞いていく。 「我慢できなくて怒っちゃった。で、別れた」 「正解。亜美ちゃんが正しいよ」 「でもその後すぐ部活辞めちゃって、突然転校しちゃったんだよね」 「逃げたの?ウケる」 「……だから結局ね、」 「見た目だけだったのかなって」 “イメージと違った” あの時の藏元を思い出して、もう、限界だった。 ガシャンッ 俺がテーブルを掌で叩いたことで、3人とは別に盛り上がってた人たちまでこっちを見た。 「……すーちゃ、」 「ベラベラベラベラ……浅い証明っすね」 「え?」 「は?」 みんなポカンとしてる。藏元だったらすぐに理解しただろうな。 「……亜美さんは、その人に、なんで周囲と同じような努力をしないのか聞いた?」 「ぇ……なに?」 「努力をしない理由、本人から、聞いたの?」 「……ううん」 「なんで?」 「……ぇ」 「なんで聞かなかったの?」 「……聞かなくても、隣にいたし、感じてたっていうか」 「じゃあそいつの環境とか事情も感じたの?隣にいるだけで?」 「事情……?」 「おい、何言ってんだよ?」 「あんたは天も人も恨んで……的な?」 「は?」 これに関しての反論は、潰す。絶対黙らせる。何がなんでも譲らない。 「私今……怒られ、てる……よね?」 「そう思う?」 「別れたのは間違いだったってこと……?」 「それは知らないよ」 「ぇ……」 「でも感じたって何?思い込みじゃない?話聞いて理解しようって努力してからでも、別れの判断は遅くなかったんじゃない?」 「…………」 「ぉ、お前さっきから、何が言いたいんだよ?!」 「あんたさ、」 「な、なんだよ」 「亜美さんが今どう思ってるか、何を求めてるか、感じ取れるわけ?」 「……あぁ??」 「肯定?否定?助言?」 「……」 「ほら。感じ取るなんて無理だろ。」 「わ、訳わかんねぇことばっか言ってんじゃねえよ!お前のせいで空気悪くなってんだろ!出てけよ!」 出てけ、なんて俺にはありがたい言葉だ。名残惜しさ皆無で立ち上がる。 「あんたずっと、他人への文句ばっかだな」 口を閉ざしたふたりを一瞥して、そのまま席を立った。 収まらない怒りを抱えたまま店を出て、早足でその場から離れる。 腹立つ。腹立つ。腹立つ。 全部を知った風な口振りの亜美さんにも腹立つし。何も知らないでただ否定するあの男にも腹立つし。 何より……! ……あーもう!この際言ってしまおう!あの場の空気を悪くしたのも、俺のムカつきも、全部お前のせいだからな! 「……っ」 尻ポケットから携帯電話を取り出して、歩きながらそいつに電話を掛ける。3コール目で、繋がった。 「……もしも」 「馬鹿かお前っ!!」 「……!??」 「お前ほんとムカつく!」 「ぇ……あの、成崎、」 「遠慮も大概にしろよ!なんで自分だけ悪く言われてんだよ!」 「ぇ……ごめん、……話が見えないんだけど」 「悪目立ちしたよ阿呆!どうしてくれんだ!」 「ちょっと成崎……?落ち着いて、……取り敢えず説明して?」 「落ち着け?はぁ?なんでそんな上からなの?お前のせいなんだけど?」 「いや、えっとっ、ごめん」 「謝んなっ!お前は絶対悪くないっ!」 「えっ?!ちょ、成崎、……まさか、お酒飲んでるの?」 怒りが限界を越えすぎて、支離滅裂なことを言っている自覚はある。ただ、藏元のせいだ。八つ当たりでも知るかっ。 「飲んでねーわ馬鹿かっ!」

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