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「なりちゃんこの後どうするのぉ?」 「どうするとは?」 「ぇ、直で学校に戻るの?」 「そっすよ」 「えーつまんないなぁ」 「つまんないって……他に選択肢あります?」 つい先程、この地域に戻ってきたんだ。予定なんて無い。 寮に戻ることしか頭になかった俺が聞き返せば、東舘さんはごく自然に自分を指差して告げた。 「俺とデートする」 「アハハーそれは無いっすねー」 「ドラーイあはは」 付き合ってられるか。 歩きだした俺に、何故かそのままついてくる東舘さん。 「……何でついて来るんですか」 「駄目なの?」 微笑む東舘さんは、微笑むだけだとめっちゃ格好いい。……いや、騙されませんから。視覚効果には負けませんから。……負けませんから。 「駄目もなにも……東舘さん、外出する用事があってここにいたんすよね?」 「終わって、ぶらぶらしてたんだよねー」 「あー逆ナンされるの待ってたんすね」 「あれ鬱陶しいから嫌い」 ……くっそ。嫌味で言ったつもりが、自慢で返された。逆ナン経験ありかよ。東舘さん本人は本気で鬱陶しがっているけど、俺から、男からすればムカつく返しだよ。 「ねぇ、なりちゃん」 「なんすか」 「ここから歩いて帰るつもり?」 「そーっすよ」 話しかけてくる東舘さんに視線は向けず、ひたすら歩く。弱まることの無い日差しは、容赦なく照りつけて俺の体力を奪っていく。 「バスとかタクシーとかもあるじゃん」 「どうぞご利用ください」 「俺だけぇ?」 「俺は歩きたいんす」 「暑いじゃん」 「だから、東舘さんは」 「なりちゃんしんどそうだから」 「……」 しんどいよ。だからせめて、低燃費行動させてくれ。 「……ねぇ、カフェでお茶していこうよ?」 「もう喋りたく無いです。黙っていいですか」 「……あぁ!体力温存?」 なんでそんなに爽やかに笑っていられるんだろうか。汗でベッタベタになるなんて、東舘さんには無関係なことなんだろうか。 俺は首筋を伝う汗を拭いながら、どうでもいいことに思考を巡らせた。 太陽燦々、夏を感じる街中を歩き続けて、漸く、学校の校門前に到着した。 言うまでもないだろうけど、街からここまでずっと、東舘さんは話しかけてきた。 俺は本当に疲れていたので、yesかnoで答えられるものは答え、文章で答えなきゃならないものは無視した。 ……仮にも先輩に対する態度でないことは重々承知してます。でもHPが残り僅かだったんです!回復アイテムも無くて……どうかご理解をっ……! 校門の警備員に生徒手帳を見せ、規定の書類にサインして学校の敷地に入る。 漸く着いたぁ……! 一先ず安堵して、大きく深呼吸したとき後ろから腰回りを締め付けられた。 「!?」 「漸く触れる」 「……さっ、」 漸く触れるってなんだよ!?結局くっついてくんのかよ!!! 腰に回された腕はどんどんキツくなってきて、変な汗が吹き出す。 「ぁあ暑いっす!苦しいっす!……離れろっ!」 「暑さでちょっと弱ってる顔とか、汗とか、めっちゃ煽情的」 「はっ……はぁ!?」 「超やりてぇ」 「やっ!?無理!?無理無理無理っ!!」 何言ってんのこの人!?人があれだけ必死に頑張って歩いてたところを、なんつー目で見てんだよ!?馬鹿なの!?変態なの!? 「もういい加減よくない?」 「何がっ!?」 「夏休みだよ?抱かせてよ」 「全然意味分かんねぇよっ!」

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