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夏休み期間中なのに、今日の学校には大勢の人がいた。帰省していて参加していない生徒もいるだろうけど、それは少数派だろう。
晴天に恵まれた今日は、夏らしく暑い。暑すぎる。そんな日に、夏祭り。
蝉は大合唱。蜃気楼は逃げ水を見せる。花壇の向日葵は俺より元気だ。
午前中、出店の準備に追われて、目的の夏祭りは夕方からだというのにすでに疲労困憊状態。
生クリームを混ぜ終えて冷蔵庫に保管した俺は調理室にあったパイプ椅子に腰を下ろした。
「成崎くんは、まだ行かないの?」
一緒に下準備をしていたクラスメイトが畳んだエプロンを抱えたまま首を傾げた。
出店が並ぶのは校舎前の広場だから、始まる前から恐らくみんなそこに集まっているのだろう。
「んー。ちょっと休んでからいく」
「そう。ぁ、藏元くんに会ったら伝えておこうか?」
「……何を?」
「成崎くんがここにいるよって」
「いやぁ……その必要はないかな」
「えー?藏元くんは探すと思うけど」
「……」
笑うクラスメイトに俺も愛想笑いを返す。
あいつは友達思いだから、友達の俺の事も探すんじゃないかって言いたいんだろうけど……今は無いと思う。いや、言い切れる。無い。
だって、なにしろ、俺は今朝から、藏元に、避けられているから。
昨日の東舘さんとの一件も絡んではいると思うけど。
今朝のこと。学校に着いて、教室にいた藏元にビビりつつ話しかけようとしたその時。
「藏、」
「藏元ー、おはよー!」
元気よく現れた髙橋の声に、俺の声は掻き消された。それでも、僅かながら聞こえてたらしい藏元が一瞬こちらを見た……けども。
「……おはよう髙橋。どうしたの?」
「あの、ちょっといいか?」
「……うん、いいよ」
髙橋の教室の外への呼び出しに応えて藏元は席を立った。……で、失敗。
グループに分かれて作業を開始するとき。俺はビビりを捨て、勇気を持って今度こそ藏元に挑んだ。
「……ぁ、あの」
「なに?」
自然に返してくる藏元に、ガッチガチの俺。まさか俺がこんな態度を藏元にとる日が来るなんて……。
「……調理グループの手伝いを、お願いしたいのですが……」
「…………」
なんだよその間は。今までの藏元なら、即答してたじゃねぇか……!
「……ごめん、出店の飾りつけの仕上げ手伝うって言っちゃったから」
「…………ぁ、そう……か」
ごめんね、と一言溢して去っていった。
……で、失敗。
そして、つい先程。クレープに使うフルーツや、調理器具を運んでいたとき。廊下を歩いていたとき、偶々窓の外を眺めたら中庭を大勢の生徒を引き連れて藏元が散歩していた。
……はぁ?出店グループの手伝いは?飾りつけは?夏祭りの準備放り出して、チヤホヤされて呑気に散歩ですか?いいご身分ですね?
勇気を苛立ちに変えて、その景色に舌打ちした。真夏の今、廊下の窓は開け放たれている。だから、聞こえてきた会話。
「藏元くんのクラスは、もう準備いいの?」
「……うん。うちの学級委員長様は仕事のできる人だから」
…………で、諦めた。
苛立ちは怒りに変わり、怒りは失望に変わった。
俺に告白してきておいて、俺が距離を置こうとしたらあっちから“いつも通り”を装ってきて、傍にきて……。
なのに、こっちが歩み寄ったら悉く避けて、最後は“そんなに仕事が好きならやらせておけ”みたいな……。あーくそ。ふざけんな。誰のせいでここ数日体調不良だと思ってんだよ。ろくに眠れてないのに、更にイラつかせんなよ。
……結局、髙橋と付き合い始めた今、俺の事は面白半分だった……とか?
「…………」
「成崎くん、大丈夫?」
考え事に耽っていた俺は、顔を覗かれてクラスメイトがいたことを思い出す。
「……ぁ、うん。先行ってて。後から行く」
「……うん。じゃまたね」
独りになった調理室で、大きく吐いたため息は虚しく消えた。
「………………イラついても無駄だよなぁ……」
この後どうすればいいのか、完全に詰んだ。
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