134 / 321
134
蒸し暑さを残したまま陽は沈み、皆が胸を踊らせるなか、一夜限りの夏祭りが始まった。
多くの生徒が広場で楽しむなか、俺はひたすら調理室と広場を行き来して係の仕事に没頭していた。
今までそれが普通だったし、今も、考え事をしないで済むから丁度良かった。
……のに。
「……は?」
「いいからいいから!あとの事はやっておくから!」
「今日はずっと仕事してたでしょ?だからあとは夏祭り、楽しんで?」
「そうそう!藏元くんをずっと放っとくなんて駄目だよ!あんなに優しい友達、もっと大事にしないと!」
これまで一度もされたことの無かったお節介。調理グループの奴等に、半ば無理矢理、調理室から締め出された。
……何故なんだ。何故こんなタイミングで、気を遣われ…………あぁ、そうか。イケメンを、ぞんざいに扱うなってことか。
でもさぁ、だってさぁ、あっちに避けられてるのに俺にどうしろと?
突然の暇はネガティブ思考を強めるだけで、ただ持て余した。
点々と明かりの点いた廊下を目的もなく歩いて、少し遠目に広場を眺められる窓を発見し、そこに留まった。
頬杖をついて生温い夜風を受けながら夏祭りの灯りを眺める。焼きそばやフランクフルトといった、香ばしい匂いもしてきて、少しだけあの人混みの中に行きたいと思えた。
そういえば俺、お昼食べてなかったな……
ぼんやりと空腹を感じたとき、背後から声を掛けられた。
「珍しい。暇そうだね」
「…………」
うわぁ……遭遇する率上がってない?これがゲームの話で、レアキャラとかレアアイテムとかだったら超嬉しいんだけどなぁ……
「東舘さんこそ、こんな日に独りとか、珍しいっすね」
窓の外を眺めたままボソリと呟く。
隣に来た東舘さんはチルドカップに入った……コーヒー?みたいな黒い液体をストローで吸った。見た目も性格も、俺とは違いすぎて……最早食生活も違うんじゃないかって思う。
「でしょー?なーんでだ?」
「知らないっすよ」
隣にいるだけなのに、東舘さんからはめっちゃいい匂いがする。こうなってくるとほんと、性格だけヤベェ奴……ぁ、失礼しました先輩。
「髙橋も、独りで歩いてまーした。なーんでだ?」
「……知らねぇっすよ」
藏元のこと、髙橋のこと。やたら聞いてくる東舘さんにいい加減苛立ってくる。俺の声から苛立ちを察している筈の東舘さんは、それでも軽い口調で続ける。
「なりちゃんが藏元くんと一緒にいないの、なーんでだ?」
「しつこいっすよ!」
思わず、声を張ってしまった。聞き流せないなんて、情けない。
「……すんません」
気まずくて、一言謝罪して、その場から立ち去ろうと踵を返したら勢いよく腕を掴まれる。
「!?」
「俺も知ーらない」
美しい顔で、恐ろしい笑顔を向けられた。
ともだちにシェアしよう!