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東舘さんは特に焦ることもなく、顔だけを扉側に向けた。押さえ付けられてる俺は上体を起こすこともできず、しかも東舘さんと被ってて扉を確認できない。
何のリアクションも取らずに顔を戻した東舘さんは、あろうことか、そのまま続行した。
「ちょっ……!?」
「今さら何しに来たのかなー」
俺の脇腹を撫で上げながら、背後の誰かに軽い口調で告げる。
「俺となりちゃんがヤってるところ、そのまま見てく?それならそれで俺は別にいいけど。見せつけてあげるから」
恐ろしい提案をした東舘さんは、それを実行するかのように俺のベルトに手をかけた。慌てて遮って、力一杯足を閉じる。
「やっ、無理っ……嫌だ!やめろって!」
強姦されて、更にそれを誰かに見られるなんて、これ以上ない程の地獄っ……!!
体を捻って懸命にベルトを死守していたら、東舘さんは肩を掴まれ俺から引き離された。
そして次の瞬間には鈍い音が響いて、東舘さんは後方の机に突っ込んでいた。
今の今まで東舘さんがいた俺の目の前には、別の人の背中。
どうやらこの人が俺から東舘さんを引き剥がして、そのままぶん殴ったらしい。
…………殴った?……ぇ!?東舘さんを!?や、やややや、やばくないかっ!?だって相手東舘さんだしっ、副会長だしっ、ファンいっぱいいるしっ……!?
俺は脳処理が追い付かず、机の上で丸まったまま固まった。
「無理矢理かよっ……!」
その声に、その後ろ姿が誰なのか分かって、一気に泣きたくなった。
「……ふふ。距離置いてたくせにやっぱ隠しきれないんだねー。お前、なりちゃんのこと好きだろ?」
「…………」
机に手をかけて立ち上がった東舘さんは口の端を手で拭った。
「……あーいてぇ。血ぃ出た。なりちゃんからの傷以外……いらないんだけど」
吐き捨てて、間髪いれず藏元の胸ぐらを掴むと、そのまま殴り返した。
2、3歩よろめいた藏元はそれでも、俺の前から退こうとしない。
「邪魔なんだけど。さっさと髙橋のところに戻れよ。それで我慢するって決めたんだろ?」
あざ笑う東舘さんに藏元は何も言わない。
……え?嘘だろ?……我慢って……そんな酷いこと、……藏元がする筈ないよな……?
「なんでお前がここに来れたのか知らねぇけど、なんの事情も知らずに簡単に助けられると思って─」
「それはご心配なく。藏元くんを連れてきたのは僕ですから」
東舘さんの言葉を優しい口調で遮って現れたのは、この場に似合わない可愛い可愛い千田だった。毎回毎回、なんてタイミングなんだ千田。
「……千田……」
「成崎くん大丈夫?」
ぅ、うわぁあぁあっ!救世主!神様!
「……藏元くん、成崎くんのことよろしくお願いします」
コクリと頷いた藏元は俺の手を掴むと、教室から出ようと足早に歩き出す。
「はぁ?揃いも揃って俺の邪魔かよ」
かなり苛立ってる東舘さんにビビって振り向きかけた時、その間に千田が入ってきた。
「東舘副会長、僕と少しお話ししませんか?」
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