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その驚愕の提案に思わず立ち止まろうとしたら、藏元に繋がれた手を強く引っ張られた。
“立ち止まるな”ということだろうけど……でも。宮代さんならまだしも、千田が、たった独りで、苛立ってる東舘さんの相手をするなんて……どう考えても危ないだろう。
「成崎がいたら、落ち着くものも落ち着かないよ」
俺の心配を察してか、少々強めの一言を呟かれた。
……まぁ……うん……助けられた俺がどうこう言える話じゃないよね……
俺の手を引いて歩くその背中はいつもより大きくて、ちょっとだけ威圧的に感じる。
俺のせいでこんな騒ぎになって、助けに来てくれた藏元は殴られて……俺めっちゃ迷惑かけてるじゃん。最低かよ……。
「……ごめん」
俯いて歩いていると、離された手。
立ち止まった藏元に合わせるように、俺も立ち止まる。その背中も見れなくて、言われるであろう何かを、ただ黙って待つ。
「…………」
「……俺は、聖人君子じゃないよ」
「……?」
「好きな子の事は気になるし、嫉妬だってするし……独占欲だってある」
……な、なんだ?いきなりどういう話??
「幼馴染みが成崎のこと好きとか……正直聞きたくない」
……え?…………あ!あの時の、聞こえてたのかよ!?聞こえてないとばかり……て、いや、決して好きとかの感情はないんだけど。
「ご、ごめっ……」
「そのくせ、俺を思って怒ってくれたり、笑ってほしいなんて……言われたら……もうどうすればいいのか……分からない」
「っ…………」
頭を垂れた藏元に、俺も何と声をかけていいのか悩んで、結局黙ってしまう。
「……それなのに、今度は河村と会ってるし」
「……ん?」
「その上戻ってきてすぐに告白されてるし」
待て待て待て。河村って誰だ?告白……は、東舘さんのアレだよな?アレはまぁ……アレとして。河村って誰?
「告白されてたし、さっきのがもし、同意のものだったら俺は邪魔しただけで」
「!!違うっ!それはない!本当にないっ!……藏元が来てくれて俺本当に助かっ」
「成崎のそういうところ、ちょっと残酷だよ」
振り向いた藏元はやるせない表情をしていた。助けてくれてありがとうって言いたかったけど、それは音になることはなく消えた。
「他の人との恋愛を聞いて、俺じゃないって…………“今まで通りのフリ”って理解して……それでも大切にされて、優しくされて……頼られて」
「…………」
「そんなことされたら…………諦めきれない……」
苦々しく呟かれた一言。俺の無神経な行動が藏元をこんなにも苦しめていた。いくら好かれる側に慣れていなかったとはいえ、確かに酷い話だよな。
じゃあ尚更ちゃんと、……ちゃんと伝えないといけない。
「……藏元」
「……ごめん。また余計なこと言った……。俺そろそろ、広場に戻るね」
「藏元」
「もう1回言うけど、あっちには戻っちゃ駄目だからね」
俺の言葉を一切聞こうとしない。さっさとこの場を去ろうとしている。
いやいや、言い逃げか?そんなもん認めるかっ!絶対逃がさんからな!
「おい、藏元っ」
「慰めとかはいらないから。大丈夫だよ」
!?な、なななな、慰めっ!?こいつマジで……こいつっ!!!
「じゃあ」
「ふざけんなよボンクラ元!!!」
「!?」
「人のこと残酷とか言っといて、俺の返答は“慰め”の一言で片付けて逃げる気かっ!?」
「……別に、逃げるわけじゃ」
「じゃあ聞けよ!お前が俺の行動で今まで迷惑してたってのはよく分かった!!ごめんっ!そこはちゃんと謝っとく!それと!もうこの際だからこっちも言っとく!言わせてもらう!」
「……なに?」
微笑んだ藏元は多分、別れ話、とでも思っているんだろうな。
でも残念でした。
俺はその逆を言おうとしてる。
それは、この学校で生き残るために作り上げた俺自身の立場を、一瞬で壊してしまうけど……それでも、今言わなければいけない気がする。
何の言葉も準備してないけど、人生には勢いも大切だ。
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