141 / 321

141

指先に触れるサラサラの髪は想像してた通りの感触だった。高いシャンプー使ってんのかな?とか、ちょっと思った。 「……じゃ……じゃあ、俺も触れること……許せよ……?」 普段、人の頭なんて撫でない。 それが一目で分かるぎこちない手つきで、藏元の頭を撫でる。自分なりに気を付けて、優しく撫でていたつもりだったけど、その手は掴まれ止められた。 「……ぁ……あれ……?」 不快だった……?痛かった……? 「……我慢してんのに……」 「ん?」 「可愛いことしないでよ……」 「……ん?」 顔を上げた藏元は困ったような、でも笑っていて……取り敢えず怒ってはいないようだ。 「それじゃあ、約束は破棄ってことでいいよね?」 「……おぅ……あ、待った!」 「えー……今度は何?」 思い出した俺に、藏元は滅茶苦茶面倒くさそうな顔をした。 「はっきりさせとかないと嫌なので、ちゃんとしましょう!…………俺と、つ……付き合ってもらえ、ぐっ!?」 告白の応えを貰ってない。そこは白黒させたくて、改めて言い直したら、途中で勢いよく抱き締められて俺は藏元の肩に顎をぶつけた。 「俺が断るわけないじゃん」 耳元で囁かれたその言葉と、包み込む体温に、心拍数が一気に上がる。それが恥ずかしくて、つい誤魔化すことに頭がいってしまう。 「……ぁ、つか、あの……出店のほうは大丈夫、かな……?」 とんでもなくビミョーな話題に至近距離でこっちを見た藏元は、眉を寄せて不満そうな顔をした。 「……な、んだよ……」 「こういう時くらい、仕事のこと忘れてよ」 「っ…………あっ!お前、俺のこと仕事人間みたいに悪く言ってたろ!」 「ぇ?」 「昼間、中庭で!あれ聞こえてたから!!」 「あぁ。あれは……」 今度は藏元が俺の肩に額を当てて、不服を訴えた。 「皆が成崎に甘えるから……腹立って」 「……ん?」 「皆に……仕事しろよって……嫌味言った」 ……うそっ!?藏元が他人に嫌味!?すげぇっ!!見たかった!!……てことは、俺は一部しか見てなかった?……誤解?……ごめん。 「成崎が皆に優しいのは最初から知ってるけど……やっぱりその……」 背中に回された手に、少し力が籠ったのが分かった。 「……嫉妬する」 ……くそ。この姿勢だから顔見えないとか、だから素直に言うとか……色々ずるい。これが経験の差か。 「優しいって言ってくれるけどさ…………優しくするって、ある意味すげぇ楽なんだよ……」 アミの言葉が、脳裏を過る。 顔を上げた藏元から視線を反らして続ける。 「張ったり弛めたり……毎回できるほど、俺は体力ないよ」 「…………あはは」 「何」 「ううん……こういう時に言葉遊び……成崎らしいなって思って」 「…………」 それ以上は何も言わず、綺麗な目はただ見つめてくる。俺の言いたかったことは、言葉遊びに隠れてちゃんと伝わった。その綺麗な目を見て確信する。 少しの沈黙を挟んで、背中に回されていた片方の手が頬に伸びてきた。 「……俺、成崎に対して、我が儘になるかも」 「っ!!?」

ともだちにシェアしよう!