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指先に触れるサラサラの髪は想像してた通りの感触だった。高いシャンプー使ってんのかな?とか、ちょっと思った。
「……じゃ……じゃあ、俺も触れること……許せよ……?」
普段、人の頭なんて撫でない。
それが一目で分かるぎこちない手つきで、藏元の頭を撫でる。自分なりに気を付けて、優しく撫でていたつもりだったけど、その手は掴まれ止められた。
「……ぁ……あれ……?」
不快だった……?痛かった……?
「……我慢してんのに……」
「ん?」
「可愛いことしないでよ……」
「……ん?」
顔を上げた藏元は困ったような、でも笑っていて……取り敢えず怒ってはいないようだ。
「それじゃあ、約束は破棄ってことでいいよね?」
「……おぅ……あ、待った!」
「えー……今度は何?」
思い出した俺に、藏元は滅茶苦茶面倒くさそうな顔をした。
「はっきりさせとかないと嫌なので、ちゃんとしましょう!…………俺と、つ……付き合ってもらえ、ぐっ!?」
告白の応えを貰ってない。そこは白黒させたくて、改めて言い直したら、途中で勢いよく抱き締められて俺は藏元の肩に顎をぶつけた。
「俺が断るわけないじゃん」
耳元で囁かれたその言葉と、包み込む体温に、心拍数が一気に上がる。それが恥ずかしくて、つい誤魔化すことに頭がいってしまう。
「……ぁ、つか、あの……出店のほうは大丈夫、かな……?」
とんでもなくビミョーな話題に至近距離でこっちを見た藏元は、眉を寄せて不満そうな顔をした。
「……な、んだよ……」
「こういう時くらい、仕事のこと忘れてよ」
「っ…………あっ!お前、俺のこと仕事人間みたいに悪く言ってたろ!」
「ぇ?」
「昼間、中庭で!あれ聞こえてたから!!」
「あぁ。あれは……」
今度は藏元が俺の肩に額を当てて、不服を訴えた。
「皆が成崎に甘えるから……腹立って」
「……ん?」
「皆に……仕事しろよって……嫌味言った」
……うそっ!?藏元が他人に嫌味!?すげぇっ!!見たかった!!……てことは、俺は一部しか見てなかった?……誤解?……ごめん。
「成崎が皆に優しいのは最初から知ってるけど……やっぱりその……」
背中に回された手に、少し力が籠ったのが分かった。
「……嫉妬する」
……くそ。この姿勢だから顔見えないとか、だから素直に言うとか……色々ずるい。これが経験の差か。
「優しいって言ってくれるけどさ…………優しくするって、ある意味すげぇ楽なんだよ……」
アミの言葉が、脳裏を過る。
顔を上げた藏元から視線を反らして続ける。
「張ったり弛めたり……毎回できるほど、俺は体力ないよ」
「…………あはは」
「何」
「ううん……こういう時に言葉遊び……成崎らしいなって思って」
「…………」
それ以上は何も言わず、綺麗な目はただ見つめてくる。俺の言いたかったことは、言葉遊びに隠れてちゃんと伝わった。その綺麗な目を見て確信する。
少しの沈黙を挟んで、背中に回されていた片方の手が頬に伸びてきた。
「……俺、成崎に対して、我が儘になるかも」
「っ!!?」
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