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広場に行けば、既に多くの生徒たちが後片付けに追われていた。片付けなんて面倒なものだけど、先程までの夏祭りの余韻がまだ残っているのか、皆楽しげに作業している。
2Bの出店に行くと片付けをしていた生徒の中のひとりがこちらに気づき顔を上げた。
「ぁ、成崎だ」
「成崎くんお帰りぃ」
「何処行ってたんだよー」
「ごめん遅れた」
「ほらね、やっぱり藏元くんも一緒だった」
「だねー」
彼らの言う“一緒”は今まで通り“友だちとして仲良しだね”って意味だと思うけど、色々あった今改めて言われるとちょっと意識してしまう。
「花火凄い綺麗だったよー」
「そうそう。今まで何処にいたの?」
「ん?」
「ふたりとも、見かけなかったから」
「……あぁ。花火は校舎の中から見た」
「えー、なんか特等席みたいだねそれ」
「えぇ?人混み避けただけだよ」
クラスメイトにそれらしい事を言って誤魔化す。
ごみ袋を2つ持ち上げ、捨てに行こうとすれば隣に来た藏元に2つとも奪われた。
「俺が持つから」
「は?……いや、これくらい大丈夫だって」
「じゃあ……、あの模造紙、持ってくれる?」
「…………」
大きな使用済み模造紙は、大雑把に畳まれている。
……確かにさ……それも処分するものだし、大きさはそれなりにあるけどさ……紙3、4枚だよ。大した量でも重さでもないし……気遣い過ぎだよ。
「ごみ捨ててくるね」
「ぁ、はいっ、お願いっ」
「成崎、行こ?」
「……おぅ」
歩きだした藏元についていく。そんな俺たちの後ろで、クラスメイトたちは小声で囁いた。
「……ね、あのふたり、やっぱり雰囲気いいよね」
「付き合ってたら、“理想”って感じだよね」
「でもそう見えてくるとさぁ……本当に何もねぇのかな」
「あはは!雰囲気ってだけで何もねぇだろ!だって相手、成崎だぞ」
「だよな。強靭なノンケだしな。難攻不落っつーより、あいつは単に男を受け付けねぇんだよな」
「だったら藏元のほうだって相手選ぶだろ。あれだけ見た目に恵まれてるんだし」
「選び放題だもんな。成崎ってブサイクじゃねぇけど……普通だしな」
「ちょっと……成崎くんに失礼だよ」
「ぁ、違うって。別に悪口じゃねぇよ」
「でもそいつの言ってることも間違ってねぇだろ。実際藏元のファンめっちゃいるし。成崎がノンケじゃなかったらよく思わない奴も絶対いるだろ」
「…………」
「…………」
背後のクラスメイトたちの議論なんて露知らず、俺は藏元の手元を見る。
「……なぁ、やっぱ1つくらい持つよ」
「これは成崎を手伝いたいって俺の我が儘だから」
「……我が儘って言葉の意味、辞書で調べた方がいいよ」
「あはは」
何が楽しいのか、藏元は笑った。
俺が言ってた我が儘って、こんなんじゃないんだけどな……。
オレンジ色の外灯を見上げながら、ごみ置き場へと続く道を歩く。すると藏元は、すれ違う人たちに聞こえない程度の声で呟いた。
「ふたりだけの秘密を、」
「ん?」
「……秘密を共有って、なんかドキドキするね」
「……」
バシッ
「い゛ったっ!?」
藏元の背中を思いきり叩いた。
「調度手ぶらでよかったー」
「そのために手伝ったわけじゃ……」
「そういうこと言うな」
「駄目だった……?」
「そういうこと言われると、次上手く誤魔化せなくなるだろ」
「……可愛い」
バシッ
「い゛っ……!!せめて別なところ叩いて……」
「自業自得」
ごみ捨て場に到着して、持っていた物をそこに置く。
そこに偶々居合わせた生徒数人がある会話で盛り上がっていて、俺は無意識に聞いてしまう。
「あれは遠回しに告白だよねー」
「だよね!告白からの告白とかレベルが違うーっ」
「亀卦川様って結構大胆だよね」
“亀卦川様”のワードが出たその集団を、思わず目の端で追ってしまった。
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