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「………………」
「?」
黙ってその場から動かない藏元に、軽くため息を吐いた。
「どーせ、お前の部屋では打ち上げとかやってんだろ?」
「ぇ……まぁ……やってるけど」
「じゃあ、買い物行ってくるってのは抜け出す理由か」
「……あー……ははは」
「図星かよ」
「ちょっと……色々考え事してて落ち着かなかったから。空気悪くしちゃうと思って……」
「……藏元らしいな」
「?」
打ち上げなんて気分じゃないくせに、部屋に戻ったら、また愛想笑いで打ち上げのバカ騒ぎに付き合うんだろうな。
困った顔をして笑う藏元の袖を、摘まんで引っ張った。
「たまにはサボれるところで、サボっていってもいいじゃん」
「……ぇ……いや、でも」
「……今度はこっちに“遠慮”ですか?」
「……そうじゃ、なくて…………」
視線を会わせようとしない藏元の袖をより強く握る。
「俺の怪我に気遣ってるなら、ほんともう大丈夫だから」
「……そうじゃない」
「ん?」
聞き取れなくて、もう一度返答を求めたら、突然向けられたあの綺麗な瞳。
見とれるというより、捕らえられる。
「そういうことじゃないよ」
「……ぇ……」
じゃあどういうことだよ?
聞きたい。問いたいのに、言葉が詰まる。
開けたドアの前で突っ立っていた俺たちは、ここがまだ廊下であることを忘れていた。
「おーいっ、部屋に入ってやれよー」
「見つめ会っちゃってー!ラブラブだねー!」
「げっ……ちがっ、違うっ!」
通りすがりの2年が俺たちを発見し、即座に茶化してきた。
「あれがB組でよくやってるっていう“ふたりの世界”ってやつか」
「あぁ、噂で聞いたことある。ほんとに聞いた通りだったなぁ」
「イチャつくなら中に入ってからにしろよー人目についちゃうぞー」
「噂になるぞー」
「っ!うるせぇ─」
「うん。そうするよ」
「─ぇえっ?」
言いたい放題のやつらに反論しようとしたら、まさかの藏元に勢いを削がれた。
な、な、何爽やかに微笑んでんだお前っ……!
「えぇマジですか藏元くんっ」
「成崎に構ってたって時間の無駄だよー?可能性ゼロだからー」
「いやいや友だちだろ?あのふたり」
「だからだよ。天使ちゃんたちが藏元くんを待ってるのにっ!勿体ねー」
「俺たちの打ち上げに混ざるー?まだ間に合うよ?」
「今からでも来なよぉ」
「もう気は済んだかよ!!さっさと行けよお前らっ!!うるせぇなっ!」
ぎゃんぎゃんと廊下で騒ぐそいつらに怒鳴る。俺が天使じゃないことくらい理解してる。けど、それを他人から言われると俺だって少しは傷つくんだ。
腕をブンブンと振って追い払う仕草をすれば、馬鹿にしたように笑うそいつらに余計腹立つ。
「くっそ……お前らっ……!」
「俺は成崎ともうちょっとお喋りしたいから、みんなによろしくね」
微笑んで誘いを断る藏元に、あいつらは素直に返事をした。俺の時とは全然違う。格差がえげつない。
「ちっ……」
まだ笑ってる数人に舌打ちしたら、背中を優しく押され、そのまま部屋に押し込まれた。
ガチャン、と背後でドアが閉まる。
「あいつら、テンション上がってるからって酔っぱらいの絡み方だよな」
「……そうだね」
暗闇のなか、手探りで玄関の明かりのスイッチを探しているとスルリと滑り込んでくるその感覚。
背後から腰辺りに回された両腕は腹の前でしっかりと組まれ、背中でその体温を感じる。
「っ…………なん……でしょうか……」
「…………部屋に入ったし、……イチャつこうかなって」
王子様スイッチ押したの誰だっ!
俺が探してるのは明かりのスイッチだったんだけど!?
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