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「ど……どうしたんだよ、あいつらの悪ノリに乗るなんて……」 「悪ノリ……?」 「そうだろ……?」 部屋に入ってイチャつけ、なんて下らないノリに藏元が乗る筈ない。 「……ノリもなにも……俺、成崎と付き合ってるけど?」 「!!?」 付き合っている者同士であれば、“イチャイチャ”は当然の権利で、まさに俺たちは今日からそれだった。悪ノリどころか、普通の…… 「……そ……それはその……ちょっと、待て……」 「なんで?」 「なんでって……」 一重に恥ずかしい。緊張する。しかも、男相手だ。何をどうしたらいいのか、対応に、反応に困る。 つーか、そんなこと言ったら藏元だって男相手は初めての筈だ。なんでこんなに慣れた感じで来れるんだ?戸惑いとか無いわけ? 俺がぐるぐると思考を巡らせていると、耳元でクスクスと笑い声が聞こえた。 「ふふっ……成崎、ドキドキし過ぎだよ」 「っ!!ぅ、るせっ……誰のせいだよ!」 「緊張してくれてる?」 「慣れてなくて悪かったな……!」 「ぁ、慣れてないんだ?」 「だっ、だから、俺はノンケだったんだぞ!?」 「……それはそうだけど……そうじゃなくて」 「??」 声色が少しいつもと違っていて、背後の気配に意識を向ける。暗闇で表情は見えないから、そんなところから読み取るしかない。 ほんの少し、抱擁がきつくなった。 「っ」 「…………」 「…………」 「…………」 なんなんだよっ……!?どうしたらいいんだよ!? 「……くら、」 名前を呼ぼうとしたら、肩を掴まれ体をくるりと180度回転させられ、後退させられる。 「ちょっ、危ねっ……」 暗闇のなかで後ろ歩きするのは中々に恐ろしくて声を上げれば、すぐに背中に固い壁を感じた。 「藏も、ぅ─……」 俺の首を包むように添えられた、手の感覚。 唇に触れた柔らかい感触。 やばい。 「…………ン……」 「……成崎」 何度か触れて、優しく噛んで、舐められて、甘く囁かれる。 「っ……ぅ……」 唇から、鼻、頬、額へとキスを落とされる。 ……めちゃくちゃ恥ずかしい。明かり点けてなくて本当によかった。 何故か抵抗する気にもなれず、ただ羞恥に耐えていると、首に添えられていた手が少し上に移動してきた。 「んっ」 「……耳弱いの?」 藏元の両手が、親指と人差し指が、耳たぶを撫でる。 「……くすぐったい」 「……可愛い」 「はぁ……?ふっ」 耳を襲う感覚に肩をすぼめていれば、親指で頬を撫でられ再びキスされる。 藏元って……唇柔らかいよな…… 意識がぼんやりとするなかでそんなことを思う。漸く離れた藏元は、暗闇のなか再び俺を抱き締めた。 「ほとんど奇跡みたいなものなのに、焦って自滅したくないから」 「……?」 「やっぱり今日は帰るね」 「……??」 「ゆっくりいこう、ね?」 何かに言い聞かせるようにそう呟いた藏元は耳元でため息を吐いて、それが不覚にも、腰に来た。 「じゃあ、おやすみ、成崎」 「……おぅ……」 ゆっくりと離れていくその体温。 藏元が立ち去り、玄関のドアが閉まり、ひとりになった俺はその場に踞って、体の熱が冷めるまで暫し待った。

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