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「あんな奴ら、お前の足枷になるだけであろう。そんな無能な者たちでも、神への供物となれるのだ。身に余る名誉なことぞ。お前を助けてやろうという私の気持ちが何故分からぬ」
「俺を阻むお前が供物となってくれれば、俺も助かる」
「ふんっ、神に逆らった阿呆め。叩き潰してその身に教えてやるわっ」
「神など知るか。俺はただ誓いを果たすまでだ」
光を纏った剣を、エルドラは真っ直ぐに教王へ向けた。
ゆっくりと小説のページを捲る。
最近ずっとバタついていて、こんなにゆったりとした時間のなか小説を読むのは久しぶりな気がする。
夏祭りから数日経ったある日の午前中、俺はいつものガゼボでベンチに寝転がり完全に緩みきった状態で読書に没頭していた。
夏祭りの夜以来、藏元とは会っていない。
付き合いはじめたとはいえ、“今まで通り”を装うことにしたので夏休み中頻繁に会うのは避けることにした。
……というのもあるのだけど、俺のなかでは、会いづらいというほうが強い。
男に…………というか、藏元に…………、体が反応して熱を持ってしまったなんて……自覚してしまってからはどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
バレたらどうしよう。俺めっちゃ気持ち悪い……よな……?藏元に引かれない?
その事を考え始めると悩みが次々と押し寄せてきて、未だ対応策は浮かんでいない。
ということで、一先ず読書に逃げたわけだ。
真夏の日差しは屋根の下に居ても容赦なく熱を伝えてくる。
滲んだ汗を手の甲で拭って、腕時計を確認する。時刻はもうすぐ12時を回る。
「昼飯……」
夏バテ気味で、あまり空腹感はないけど藏元と約束もしてしまったことだ。そろそろ寮に戻ってご飯を食べよう。
小説に栞を挟み、ベンチから立ち上がった。
炎天下のなかいつもの小道を辿って、暫く歩き、寮が見えてきた。
正面入り口に着いたところで、そこでお喋りしていた3人の生徒の立ち話が耳に入った。
「えっ、じゃあ今までずっと謹慎してたの?」
「らしいよ。面会すらさせてもらえないって先輩が怒ってたから」
「謹慎の理由は?」
「それが、何も公表されてないんだって」
「えー!それじゃあ副会長様のファンは不満だよね」
やっぱりその人の話か。怒ってた先輩……というのは多分、東舘さんにくっついていた取り巻きだろう。
「でも、噂によると書記様も同じ日から謹慎されていたらしいよ」
「!!……え、じゃあ……!!」
「……かもねぇ?!」
何かの妄想が一致したらしい3人はきゃあきゃあと盛り上がっていた。そんな立ち話など一切聞いていないフリをしてその場を通り過ぎ、エレベーターホールに向かう。
違反行為の内容は伏せて謹慎処分……。しかも、やっぱり千田も……。
一体宮代さんは何を隠しているんだろう?
ボタンを押してエレベーターを待っていると、突然肩に腕が回されてその重みで少しバランスを崩した。
「成崎ーなんか久しぶりだなぁ!」
「髙橋っ……」
半袖にハーフパンツ、ジャージ姿の髙橋は首にタオルを掛けていた。前髪が少し濡れていて額にくっついている。この様子を見るに、ほぼ間違いなく外で運動してきたんだろうな。
「この暑いなか運動してきたの?」
「おぅ!野球してきた!勿論勝ったぞっ!」
「へぇ。こんな灼熱地獄のなかよくやるねぇ」
「何言ってんだよ!夏だぞ!晴天だぞ!野球やれってことじゃん!」
心底楽しそうに、ニコッと笑った髙橋が眩しすぎる。俺はこの暑さのなか、こんな風に笑えない。笑う体力なんか既にない。
「羨ましいよ……」
「えっ!?成崎も一緒にやる!?いいよいいよ!やろうやろう!」
「ぇぁ、いや、そういうことじゃ」
「なんだぁ!もっと早く言えよぉ!俺めっちゃ嬉しい!」
「…………」
誤解なのに、やたら喜ぶ髙橋を前に、断れない雰囲気になってきた。これは……近い未来、外に引き摺りだされる予感。
「……あの……でも予定もあるし」
「だよな!空いてる日教えてくれよ!」
「えっと……髙橋、そうじゃなくて」
「腹減った!ご飯食いながら話そう!」
「…………」
何故か、一緒に昼食をとることになった。
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