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「あー……俺と?一緒に?ご飯?」
「おぅ!」
「……」
髙橋と一緒に……。
てことは、食堂か?いやいや髙橋だぞ?こんなフレンドリーではあるけど……髙橋も生徒会メンバー様ですけど?夏休みとはいえ、食堂はそれなりに人いるだろうし……。
髙橋のファンは比較的温厚ではあるけど、ファンはファンだ。嫉妬は切り離せない。
「あっ、」
「ん?」
「俺ちょっとシャワー浴びたいから、その後行くよ!」
「あぁ……分かった。どうせ食堂混んでるだろうしゆっくり……」
「え」
「ん?」
到着したエレベーターの扉が開き乗り込もうとしたが、髙橋の反応に足を止めた。
「食堂に行くのか?」
「……違うの?」
「成崎の部屋かと思ってた」
「俺の部屋?」
「俺も友達の部屋でご飯食いたい!」
「……何それ?」
「……駄目?」
「……まぁ……いいけど」
「よっしゃあ!」
こいつも立派なアイドル様だからな。髙橋でも、それなりに相手の迷惑にならないように気を遣って極力遊びに行くことは控えていたんだろう。
ガッツポーズしてエレベーターに乗り込もうとした髙橋、それを見て笑う俺。
そんな俺たちの背後から低い声が響いた。
「よぅ、髙橋 久道」
「!!?」
「?」
重い声だけど、少し楽しそうに聞こえたその声は、髙橋をフルネームで呼び止めた。
独特な呼び方するなぁ……誰だよ?
そう思って、髙橋より先に振り向こうとした俺は、背中を思いきり押されてエレベーターに突っ込んだ。
「でっ!?」
頭をエレベーター内の壁にぶつけ、ゴオォンと響いた。
エレベーターは駆け込み禁止の筈なのに、引き摺りこまれたり、押し込まれたり……。
皆様、今一度ご利用方法をご確認ください。
「なんだよっ……??」
訳も分からず額を擦りながら髙橋を見れば、扉を閉めるボタンを必死に連打していた。
「おい???」
「閉まれ閉まれ閉まれ!」
髙橋のその願いが届いたのか、扉は何者かに妨害されることもなく閉まり、無事動き出す。
「……なんか、呼ばれてたけどいいわけ?無視して」
「も、……問題ない!全然!」
「嘘つけ。顔の筋肉引きつりまくってるぞ」
「俺は会いたくないから!逃げる!」
「……なら別にいいけど……俺、一緒にいたことで恨まれたりしない?」
「今、真後ろだったし、角度的に成崎は顔見られてないから大丈夫だよ!」
「……」
それ映画とかで敵から逃げる時とかに使う台詞だよね。明らかにいい台詞ではないよね。ヤバい相手の時に大体使うじゃん。
お前の顔は割れてない、的な……。
「えっと、シャワー浴びてから成崎の部屋に行くからっ」
「あぁうん……。でも俺の部屋に来ても大した料理出せないよ?冷蔵庫に何入ってたかも覚えてないし……」
「ある食材で作れちゃうのかお前!料理人みたいだな!すげぇ!」
「ごめんハードル上げないで。なんちゃって飯だから。期待しないで」
「楽しみにしてるぞっ!」
「…………うん」
何を言っても髙橋にかかれば楽しみに変わる。だからこれ以上否定するのはやめよう。
3階に止まったエレベーターから降りて、5階に向かう髙橋と一旦別れた。
その後、部屋に戻って冷蔵庫の中を物色し昼飯を考えていた俺は、大事なことを今さら思い出した。
髙橋は藏元に惚れていた、ということを。
これからふたりきりで昼食をとるなか、果たしてその話題は避けられるのだろうか。
昼食のメニューとともに、頭を悩ませる事実に気づいてしまった。
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