154 / 321
154
「ゴホゴホッ……ごめ、ゲホ……」
「おいおい大丈夫かよ」
噴いた麦茶を布巾で拭きながら謝罪する。
大丈夫って……誰のせいだよ。なんつー話題ぶっ込んでくんだよ。
「なぁなぁ、成崎は知ってた?」
「……えー……?」
その話題続けんの……?という意味を込めてじとっと見れば、髙橋はパチパチと瞬きしニコッと笑った。
「だよなっごめん!」
「おぅ……」
「食べ終わってから話すよ!」
「そこかーい」
噛み合わねぇ……!!
悪気のない髙橋に、それ以上拒絶することもできず、今は食べることに専念した。
***
皿に残った豚肉とキャベツを集め、最後の一口を口に放り込んだ。
「……ふぅ……」
「旨かった!ごちそうさま!」
「よかったです。……ぁ、髙橋が買ってきてくれたアイス、食べようか?」
「だな!」
立ち上がり冷凍庫からカップアイスを取り出す。髙橋に手渡して、俺も座り直す。
「んー!やっぱ夏はアイスだよなー!」
「……うまい。甘い。ありがと」
「おうっ」
冷たい感覚とチョコの甘味が口いっぱいに広がっていく……幸せだー。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……あーもう分かったよ話せよっ」
「!よしっ」
ソワソワソワソワしやがって!堂々と思春期かよっ!!
「成崎は知ってたか?」
「……」
それは、さっきの……やり方の件、だよな……
「詳細は知らないよ……」
「……でも、なんとなくは知ってるんだ!?」
「……髙橋こそ、知らなかったのかよ」
「おぅ」
「なんでだよ。男と付き合ってたじゃん」
「うーん……そういうとこまでいったことなかったし」
だよね。長く付き合ってた人なんていなかったもんね。しかも、全員が全員、それを求めるのかも疑問だし。
「……でもさ、知識くらい……」
「だって出来ると思ってなかったからさぁ」
「それは確かに。その意見には激しく同意する」
これでもかという程何度も首を縦に振る。やっぱり髙橋はノンケ寄りだ。
「でも、成崎はノンケじゃん。逆になんで知ってんの?」
「ぇ……」
ノンケ、と言われて間を置いてしまった。相手が髙橋だから余計罪悪感を感じる。
「……あー……入学したとき……ある奴に叩き込まれたんだよ。そういう……男同士の、色々を」
「そっかぁ。初めて知ったときの衝撃、やばいよなぁ」
「……」
チビチビとアイスを食べ進める。なんでこんな会話をしながら食べなきゃならんのだ、と心底思う。
「……成崎さ」
「……何」
「たくさんのやつの相談受けてるじゃん?」
「……うん……?」
「そいつらを見てきてさ……見た感じ、俺ってどっちだと思う?」
「…………は?」
「すごい考えてみたんだけど自分じゃ分かんなくて」
「……どっちって……何が?」
「……俺がその……上か下か」
「…………お前それ……」
衝撃的な質問に、開いた口が塞がらない。
これはふざけてんのか?真剣なのか?天然なのか?馬鹿なのか?
「みんなどうやって決めてんだろ?」
「……それは人に聞くことじゃねぇって……」
「え!?」
「むしろなんで聞けるの。聞ける髙橋が凄いんだけど」
「いやだって……考えたって分かんないし、……でも成崎になら、人に相談できなさそうな事でも聞ける気がして!」
どんな思考だよそれ。他人に聞けないことを俺に聞かれたって困るって。
「どう決めてるかなんて知らないけど、そんなの、好きになった奴と話し合え……ば……」
そこまで言って髙橋が何故この話題をふってきたのか、理解した。
今まで考えたこともなかったのに、藏元に対してはそこまで考えたんだ。最近知って、最近真剣に考えて、それでも答えが出せなかったんだ。思春期ならではの……悩み?
「…………」
「……ぁ、ちょ、黙んなよー!恥ずかしくなるじゃん!」
「恥ずかしくなるの遅くない?」
「成崎が黙ると俺の何かがバレたんだなって実感するわー」
「あははぁ……」
照れながらも、楽しそうにアイスを食べる髙橋に愛想笑いで返す。
「や、やっぱ、好きな人ができたら、その人に相談するのが一番なのでは……?」
この話題から逃げたくて、頷いて貰えるような適当な言葉を揃えた。
が……
「……考えなかった俺が変だったのかな?」
「……ぇ……?」
「……付き合ってるやつは皆、当然考える事だったのかなって」
「………………」
髙橋は恋愛に真剣で、俺は恋愛に不熱心だったと思い知る。
ともだちにシェアしよう!

