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「どうしたんだ?」
「どうしたって……久道くんが夏休みの課題終わらないってさっきの電話で言ってたから」
「そうだよ。だから俺ら、藏元くんにお願いしたんだよ?」
「えっ……ごめ……ありがとうっ」
俺の部屋に来る前にこいつらと電話をしていたらしい髙橋は、どうやらこいつらにも課題が終わらない愚痴を溢していたようだ。
そしてこのふたりは、どうしても髙橋と藏元をくっつけたいらしい。
俺はチラチラと嫌な視線を感じながら会話を聞き流す。
「ごめんな、藏元。あーでも教えてほしいって少し思っただけで、他の友だちに教えてもらっても大丈夫だから、忙しかったら、ほんと、断ってくれてもっ」
「大丈夫だよ」
「っ……」
口角を上げて微笑む藏元に、髙橋は唇をぎゅっと結んで頬を赤らめた。ただ、皆気づいてないけど、藏元の目は、全く笑っていない。
相変わらず作り笑顔上手いね。つーか、怒ってる原因は俺?藏元とは会ってなかったのに、髙橋と会ってたから?……そんな事で藏元は怒るだろうか?
「ところでさ、髙橋。成崎の様子が変なんだけど、ふたりで何してたの?」
「!!?」
藏元の直球の質問に俺はかなり動揺した。今の髙橋は藏元に骨抜き状態。微笑みを向けられたまま藏元に問い詰められれば洗いざらい正直に話してしまうのではないだろうか。
そんなことされてみろ。藏元にドン引かれて終わりだ。
「おっ…………教えないっ」
「!」
「……」
「久道くん?!」
「ぉ俺と成崎のぉっ、ひ、秘密だ!」
「ーーーっ」
感動。こんな空気の読める子だったなんて!
藏元は目を細めて、ポツリと繰り返した。
「秘密……」
「……だ、大丈夫だってっ。成崎の事は好きだけど、藏元の友だちに何かするつもりはないからっ」
「お、おいっ」
あ……テンパって余計なこと言い出した。止めねば俺まで怪我する。
「大体成崎はノンケじゃん!あっ、別に、成崎のことブスとかって言ってるわけじゃないからな!?成崎はほら、信頼できるし、可愛いけどさ」
「もういいから黙れって!!」
聞いていられなくなって、髙橋の口を手で覆った。サッカー部ふたりはなんとも形容し難い顔をしている。
大方、俺と秘密を共有していることが不服なんだろうが、髙橋が俺をフォローするような言い方をしたから責められないのだろう。
「ごめん……何でもないから。気にしないで」
「君さっきから変な表情しかしてないのに、それで納得できるわけ無いだろ」
苛立ちを含んだ声で言われた。
……変なって……当然のように失礼だな。
「相談?」
「……ぇ」
どう返答しようか迷っていると、藏元がそう呟いた。
「成崎は、また相談受けてたの?」
「……ぁ、あぁ。うん、そう……」
「……なら秘密も仕方ないね」
「…………」
藏元は、その一言でふたりを黙らせた。
凄い……凄いけど……何故こんなに今の藏元を怖いと思っている?出来る限り早急に、藏元の怒りの原因を突き詰めないと……。
「髙橋、勉強どうする?」
「ぁえっ??」
「今からでも、俺はいいけど」
「ぁ、じゃ、……行くよっ」
「俺たちも参加していい?藏元くん」
「うん、勿論」
「じゃ、えっと、」
「いいよ、気遣わなくて」
「ごめんな成崎。あ、昼飯の皿くらい洗って」
「いいから。」
謝罪しながら靴を履いて外に出る髙橋に小さく笑う。サッカー部ふたりは満足げに笑ってる。藏元は、3人にバレないように俺を横目で見ていた。
……あー……なるほどね。今から勉強やろうっていう提案は、俺から離すためか……。
なんだよヤキモチかよ。可愛いやつめ。
口元がニヤけそうになってポーカーフェイスを演じていたら藏元が、今度は本当の笑顔をつくって3人に微笑んだ。
「先に行っててくれる?俺も成崎に少し相談したいことがあってさ」
「!!?」
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