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「ぁじゃあ待ってるよっ」
「そ、そうだよ、少しなんでしょ?俺らここで、」
慌てて藏元を引き戻そうとするふたりに、髙橋が止めに入った。
「いいから行くぞ!皆いたら相談しづらいだろっ」
「でも、久道くん……」
「ごめんね、皆」
「いいよいいよっ。じゃあえっと……後で!」
納得していないふたりを無視して、髙橋と藏元は一旦別れの挨拶をした。遠ざかっていく三人の背中を見送り、藏元は俺に向き直った。
「部屋に入ってもいい?」
「…………」
「……何?」
「お前ほんとに相談あるの?」
「……さぁ?」
にっこり微笑んだ藏元が信用ならない。何を企んでいるのか、全く読めない。けどこのままここで睨みあっているわけにもいかず、中へと通した。ドアが閉まり、靴を脱ぐ。
「成崎」
「何、ぅ」
呼ばれて振り返れば両頬は藏元の手に包まれた。
「!!?ぁ、ちょ、」
この、この手は、や、やばいっ!さっきまで、つーか、この前からずっと、藏元の事で色々考えちゃってるわけで、今何かされると俺の色々が、色々まずいことにっ……!!
「まっ、ぁの、ストップ、」
ひぃいいーーっ!!!
心臓も体温ももう異常を示してる!バレたらどんな言い訳でも誤魔化せない!
藏元に、引かれ──
「ぅう゛──???」
「必死だね、成崎」
来ると思った感覚は訪れず、代わりにやんわりとした痛みが来た。藏元に両頬を摘ままれ、引っ張られていた。
少し意地悪な笑みを浮かべる藏元は俺の変な顔を楽しげに見下ろしている。
「なぃ゛……?」
「そこまで必死に隠して、俺に知られちゃそんなにまずい秘密なの?」
「ぇ゛え??」
「しかもさっき、俺が必死なの、ちょっと笑ってたでしょ。俺のこと試してるの?」
「そえあいがう」
「何?」
何、じゃねぇよ!頬っぺた離せ!喋れねえだろ!!
「部屋にふたりきりで、顔赤くして出てきて、肩組んでくっついて」
「い゛はいっえぇ」
「そんな状況で秘密にされたら流石に疑うんだけど」
ねぇ?と首を傾げた藏元は、とんでもなく意地悪モード。
こいつ、キャラありすぎじゃない?多重人格なの?
頬を摘ままれ過ぎて、視界が少し滲んできた。それをぐっと堪えて藏元に反抗する。
「はあしをい゛えっ」
「ん?何?」
「…………」
イラアァアっ!!!
「ちぇえはあせぇえ!!」
「ぁ、手?離して欲しい?」
ブンブンと首を縦に振る。話が出来ない。頬っぺたが痛い。よって、解決に至らない。
「俺が納得できる言い訳、ちゃんと出来るのかな?」
意地悪なことを言って手を離した藏元。頬っぺたを擦りながら俺は藏元を睨んだ。
「可愛すぎるだろお前っ!!!」
「…………え?」
藏元の意地悪な顔は崩れ、呆気にとられている。
「ヤキモチとか、遠慮なしに感情出してくれるから、嬉しかったんだよ馬鹿!!試してるわけねぇだろ!!」
「なに、それ……?」
意地悪キャラを維持できなくなったらしい藏元は手で顔を覆って考えを整理し始めた。
「えっと…………じゃあ…………秘密は?」
「……それは言わない」
「えぇえ?そこが一番怪しいのにっ」
「た、髙橋の相談も関わってくるから、言えないっ」
「そういうとこ、ほんと律儀だよね」
「秘密とか約束は守るし、藏元が我が儘言ってくれんのも嬉しい」
今度は俺が藏元の頬を見上げるようにして摘まむ。
「いっ……」
「ただ、つねる加減は分かれ。俺の頬っぺた千切る気か」
「ん゛……ふふ」
「笑ってんじゃねぇよ」
「ぃはい゛えふ……」
はにかむ藏元の頬を離して、ペチペチと叩いた。
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