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「で、藏元が話したかったことはこれで解決?」
「え……」
「……あ、いやほら、話終わったらあいつらの勉強見に行かなきゃだろ?」
「……今からって口実は失敗したね」
「おいおい。もう言っちゃったことだろ」
「……」
あいつらは藏元が来ると思って、ここで待たずに帰ったんだ。じゃなきゃまたここに迎えに来るだろう。少し話してから行くと言ってしまった以上、俺にはどうすることも出来ない。
「……俺、成崎に避けられてた訳じゃない、よね?」
「……え?」
「お祭りから会ってなかったから……。」
「……ぁ、そ、だよ。なんか夏休み中何度も会うのも噂立ちそうじゃん?」
「そうだよね」
「……なんだよ」
今日はこのまま帰るとして、学校が始まればまた会えるのに、なんでこんなに神妙な面持ちなんだ。
「もう夏休みも終わるから今さら言ってもしょうがないけどさ」
「ん?」
「成崎と、もっと思い出作りたかったなって」
「…………」
少し俯いて微笑んだ藏元に、仕方ないという一言で返すにはあまりにも冷たい気がして数瞬考えた。
「……冬休みは」
「?」
「冬休みは、どこか行こう」
「……まだまだ先だね」
言いつつも嬉しそうな藏元にちょっとホッとする。色々考えちゃって避けてたのは事実だけど、でも会いたいと思わなかったわけじゃない。俺ももう少し、会うために考えればよかったのかな……。
「……俺は会えなかったのに髙橋は会えたとか、やっぱりちょっとやだ」
「まだ言うか」
冗談も含めての小言に、俺は藏元の腕を軽く叩いた。
「じゃあ、行くね」
「おぅ。……ぁ、髙橋のことなんだけど」
「うん?」
「もし俺と一緒に運動やるぞとか言い出したら、それとなく、俺が断ってたって伝えてくれない?」
「成崎が髙橋と運動?」
「なんか、話噛み合ってない状態でそんな提案されててさ……ぁ、髙橋が忘れてたらこっちから言い出す必要はないから」
「……俺も成崎と遊びたいな」
「お前俺を馬鹿にしたいだけだろ」
「そんなわけないじゃん。必死な成崎、可愛いよ?」
「今度“馬鹿にする”の意味、辞書で引いてみろ」
「あはは、そういう意味じゃないって」
ドアを開け、俺に背を向けた藏元は柔らかな声音で呟いた。
「じゃあ、またね、成崎」
「ん。また」
ドアが閉まり、ひとりになってからふと気づく。
あぁ……この空気感だ。藏元とは、いつもこの暖かい空気感になるんだ。付き合うことになってから、余計なことばかり考えて、悩んで、引かれたら、嫌われたら、と自分から気まずくして素直に会えない状況にしてた。藏元まで不安にさせてた。
……大丈夫。先のことばかり考えないで、ちゃんと今のことを考えよう。
今になって考えを改めた俺は、漸く昼飯の片付けに取り掛かった。
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